笑顔の裏の目撃者

土曜日の部活後に二年生の先輩たちは田中さんの家でみんなで勉強をするらしい。日向たちの面倒も縁下さんに見てもらいたいところだったけれど、流石に全員は田中さんの家に入れないらしいので、一年生で集まってファミレスで勉強することになった。なんで休日も王様や日向と顔を合わせなきゃいけないんだか。あとできっちり奢ってもらうことにしよう。そう思いながら、四人でファミレスを目指して歩いて行く。烏野高校からは少し遠いファミレスだけど、安価なので今日のように午前で部活が終わる日にはこういう場所が丁度いい。お金もかからないし騒いでも文句言われないし。(馬鹿どもはきっと騒ぐことが想定される。)お目当てのファミレスが見えて、日向に先に名前を書いてくるように指示して僕と山口はのんびり歩いて行く。店の中に入ると店員にテーブル席に通される。席に着くと真っ先に日向がメニューを開いた。

「とりあえずドリンクバーでいいよな?」
「ドリンクバーつけずに飲み物が足りると思ってるの?」
「確認に聞いただけじゃん!月島本当性格悪いな!」
「なに、勉強教えなくて良いって?」
「うそですごめんなさい勉強教えて下さい」

僕にひれ伏す日向に若干気分を良くしながらメニューを受け取って吟味していく。さっきご飯食べたばっかりだし、ショートケーキでいいかな。全員が頼むものを決めたところで店員を呼ぶチャイムを押した。

「お決まりでしょうか?」
「ドリンクバー四つ、ハンバーグプレート二つとフライドポテト一つ、ショートケーキ一つで」
「復唱させていただきます。ドリンクバー四つ、ハンバーグプレートお二つ、フライドポテトお一つ、ショートケーキお一つでよろしいでしょうか?」
「それでお願いします」
「かしこまりました。それではドリンクバーはセルフサービスとなります。あちらのドリンクバーをご利用下さい」
「わかりました!」

店員の言葉に日向と山口が返事をしてくれるので助かる。日向と影山に僕と山口のドリンクバーを取りに行ってもらい、僕と山口は勉強道具を広げる。今日は英語を教えなきゃいけないんだったっけな……。二人が戻ってきて、それぞれ勉強道具を広げる。日向の質問に答えながら勉強を教えていると、すぐに店員が料理を持ってきた。先ほどとは店員が変わっている。料理を持ってきた店員は僕達のジャージを凝視しながら少し驚いたような顔をしていた。少し不愉快だな、と思ってネームプレートを見た。この人の名前は“みょうじ”と言うらしい。机の上の勉強道具を鞄に一旦しまう。

「えっと、お料理並べても大丈夫でしょうか?」
「アッ、ハイッ、どうぞ!」

それぞれの目の前に料理を置かれる。それで店員は戻るかと思えば、話しかけてきた。

「あの、烏野高校の男子バレー部だよね?」
「?はい!そうです」
「そっかー……こんなに新入部員入ってたんだね、」

目の前の人の発言が最初は不可解だったけれど、先日の縁下さんたちとの会話を思い出せば辻褄が合った。

「もしかして、幽霊部員の“みょうじなまえ”さんですか?」
「エ゛ッ、この人が?」
「ははっ当たり。キミ鋭いね」
「流石ツッキー!」
「山口うるさい」

縁下さんや西谷さんからの話では人柄がよくわからなかったけれど、なるほどこういう人か。うるさすぎず、静かすぎず、二年生の中でいうと縁下さん系かな。

みょうじ?センパイはここで何やってるんですか?」
「んー……アルバイト?」
「そうなんスか」

影山の質問に答えた時のみょうじ先輩の顔に一瞬陰りが見えた気がしたけれど、気のせいだろうか。なぜかそのままの流れで自己紹介する羽目になった。疑問がフッと浮かんだけれど、これは本人に言っちゃだめなのかもしれない。

「テスト勉強?」
「うぃっす。赤点取ったら夏合宿行けないんで……」
「そっか……あたしも見て上げられたらよかったんだけど今忙しくて……ごめんね?」
「イエ!また今度教えて下さい!」
「オッケー」

いつ勉強を教えるかの約束はしなかった。こんなの口約束だろうなと思いながら日向とみょうじ先輩の会話を聞く。

「あ、あたしもう行かなきゃ。じゃあごゆっくり」

裏から他の店員に手招きされているのに気付き、みょうじ先輩は僕らのテーブルを後にした。そのまま来た料理をすべて食べ、勉強に集中する。馬鹿二人の相手は本当に疲れる。けれど、収穫も無くはなかった。

「そういえば、みょうじ先輩なんで今日の部活来なかったんだろうね?」
「アルバイトする暇あるなら来れるよな?」
「今日部活あること知らなかったんじゃない?」
「明日先輩たちに聞いたらなんかわかるかな!」

このとき、僕らはこの話を西谷さんたちにするべきじゃなかったと、あとになってから気付いた。