夢を見た。懐かしい、夢だ。西谷とたまたま二人で帰ったあの日の夢。一緒に全国行くぞって西谷が言って、あたしがどこまでもついていくよって返した、あの会話。あのときの気持ちに嘘なんて何一つないし、あのときのあたしはこんな風になるなんて微塵も考えていなかった。あのままずっとみんなをサポートしていくんだって、潔子さんのお手伝いをしていくんだって思ってた。そんなちっぽけな望みが叶わなくなるなんて、誰が予想できただろうか。
朝のアルバイトを終わらせて、学校に行くと昇降口のところで西谷が仁王立ちしていた。その後ろには田中と縁下も控えている。朝練はどうしたのよ、こいつら。西谷があたしの方に近寄ってくる。相変わらず目線があたしより少しだけ低い。
「ちょっと面貸せ」
「なんで」
「いいから!こっちこい!」
西谷に引っ張られるまま連れて来られたのは中庭の人目があまりない場所。こんなところで話さなきゃいけない用事ってなんなんだ。西谷があたしと対峙して、他の二年生はあたしと西谷の様子を窺っている感じだった。
「お前、なんで部活来ないでバイトしてんだよ」
どこだ、どこでばれたの。西谷たちと遭遇した記憶はない。ということは他の面子……一年生たちか。あのときのあたしを殴りたい。バレー部の後輩って分かると気が緩んでしまった。あの子たちはきっとあたしの顔なんて知らなかっただろうから知らないふりをすればよかったのか。
「お金欲しくて」
要点だけを言う。だって授業料と部費が払えないからアルバイトしてるなんて、言えない。少なくとも同級生には言えない。
「金を稼ぐことが部活より大事なのかよ!お前今年入って何回休んでると思ってんだ!」
「それは、ごめん」
「来いって言っても来ねぇじゃねーか!」
「だからそれは、家の用事が」
目の前の西谷がどんどん熱くなっているのが分かる。直情型だから仕方ないんだろうけど。こいつらを納得させられるだけの言い訳がない。
「じゃあその用事っていつ終わるんだよ!言ってみろよ!」
上手く返せる言葉が見つからなかった。あたしが言葉を発することを躊躇したら、西谷の堪忍袋はついに切れたらしい。
「戻ってくる気がないならなぁ!辞めちまえ!!お前なんか居ても居なくても一緒だ!!」
とどめを刺されて、息が詰まった。さっきまでどうやって呼吸をしていたんだっけ。
「おい!ノヤっさん!」
田中が西谷の言葉を遮った。縁下も止めに入る。二人が熱くなりすぎている西谷を一旦連れてその場から離れた。去っていくときに縁下に言われた。
「みょうじは何も言わないから。それじゃあ俺たちもなんにもできないよ」
やっぱり、見透かされていた。縁下はそういうところ目敏いから。何か言えばいいの?でも、何を言えばいいの?わからないよ。家のことを話す?そんなの無理だし、話したところでみんなとの関係が気まずくなりたくない。これはあたしの自分勝手な事情なのだから。西谷の言葉は鋭く胸に刺さってしばらく取れそうにない。西谷は何も間違ってない。悪いのは、あたしだ。
今日は学校のあとにアルバイトが入ってない日だから、こっそりと部活が行われているであろう体育館にやってきた。少しでも潔子さんを手伝えたらそれであたしは救われるって思った。
「あっ、あのっ!誰かにご用ですかっ?!」
声をかけられたと思って振り返ると、自分よりも小柄な女の子。見覚えがない女の子だ。初々しいし一年生かな?愛らしいなぁ、と思って話しかけた。
「あ、あたしここの部員のみょうじなまえっていうんだけど……」
「あ!先輩がですか!」
「あなたは?」
「は、はひ!わたくし谷地仁花と申します!部活見学させて頂いているところでありますっっ。清水先輩からお噂はかねがね…!」
目の前の存在に頭の中がスーッとしていく気がした。そっか。そうだよね。滅多に部活に来ないあたしなんかより、毎日来てくれる新人マネージャーの方が良いよね。自分の体温が下がったように感じる。
「清水先輩呼んできましょうか?」
「ううん、大丈夫ありがとう。谷地さんマネージャー頑張ってね!」
「えっ!?みょうじ先輩!?」
早く現実から目を逸らしたかった。引きとめる谷地さんから逃げるように体育館を後にした。校門のところまで走って、校門を出たところで足をとめる。いつかこうなるかもなって心のどこかで思ってた。あーあ、現実になっちゃった。
「あたしの居場所なくなっちゃった」
哀しいね。