なまえのせいで風邪を引いていることがバレてしまい、レイジさんに自室のベッドに担ぎ込まれた。あとからやってきた支部長には今日入っていた任務はすべてキャンセルしておいたから、と告げられてやることがなくなってしまった。別に換装体になればどうってことないんだけどな。あいつのサイドエフェクトはこういうとき厄介だなと実感する。
やることもなくなってしまい、いよいよ寝ているしか選択肢がなくなってしまい、仰向けになり自室の天井を見る。風邪であることを自覚すると、少し体がだるくなってきたように思う。そういえば、昔もこんなことがあったような気がする。あれはなまえと小南と出会ってしばらく経った頃だろうか――。
「もがみさん、もがみさん」
「ん?どうした、なまえ」
「じんの様子が変だよ」
なまえと遊んでいると、急に立ち上がって最上さんの方に行ったかと思うと、おれを指さしながらそんなことを言い始めた。別にいつもと変わったところはないつもりだ。最上さんはおれの顔をじっと見ると、唐突に額に手を当ててきた。熱を計るような動作に首をかしげたくなる。
「ほんとだな。なまえよくわかったな」
「なまええらいでしょ?」
「えらいえらい」
おれの額に手を当てたまま嬉しそうにするなまえの頭を反対の手で最上さんが撫でていた。でも自分では本当につらいと思っていない。なんでなまえはこんなこと言うんだろう。
「おれ熱なんてないよ」
「うそ!じんうそついてる!」
おれが反抗するとなまえは大声で言った。そんなにおれを風邪引きさんにしたいらしい。
「うそついてない!」
「じん変だもん!」
「はいはいちびっこたち落ち着けー」
二人で言い合っていると、最上さんがすかさず止めに入った。おれが否定したことでなまえが泣きそうになっていた。でもこっちだって引けない。
「なまえ、悠一のことは俺が見てるから桐絵と遊んできな」
「はぁい」
最上さんの言葉に大人しくいうことを聞いて、なまえは少し離れたところで林藤さんと小南のところへ向かっていった。なまえが目の前からいなくなるとほっとしたのかため息が出た。最上さんはそんなおれを見て仕方ないなって笑って、おれを連れて部屋に歩いて行った。
部屋に着くとベッドに寝かせられて、体温計を渡される。熱なんてないのに、と思いながら脇に挟んで体温を測る。すぐにピピピ、と音がして測り終わったことを告げた。体温計を取り出すとそこには三十八.五度と表示されている。体温計を取り上げられて、最上さんもおれの体温を見た。またため息をつかれる。
「悠一、お前よく平気だったな」
「さっきまでつらくなかった」
「そりゃ身体が自覚してなかったからだ。熱下がるまで大人しく寝てろよ」
「……んー」
パジャマを出されて、着替えてベッドに沈む。だんだん頭も痛くなってきたように思う。おれ本当は熱あったんだなぁ。なまえに悪いことした。つらさのせいか、どんどん意識が遠のいていく。
次に起きると、目の前になまえと小南が忍田さんと一緒に居た。
「!?なに、」
「じん大丈夫なの?」
そう声をかけてきたのは小南で、少し心配そうにしているのが分かった。いつもはふてぶてしいのも今は鳴りを潜めている。
「大丈夫だよ」
「なまえ、じん大丈夫だって!戻るわよ!」
「きりえまってっ」
小南が引きずりながらなまえと部屋を出て行こうとするけれど、なまえが抵抗する。なかなかすごい光景だ。付き添いなのか、忍田さんが止めに入った。小南から解放されたなまえは恐る恐るこちらに近寄ってきて、おれの手を握った。
「じん、さっきはごめんね」
急になんだ、と思ったらさっきの押し問答が気にかかっていたらしい。なまえが正しかったんだから謝るべきはこっちだ。
「いいよ。おれこそごめんな」
「元気になったらまた遊ぼうね」
そう言って笑うなまえはとても可愛らしかったのを今でも鮮明に覚えている。忍田さんがもういいか?風邪が移ってはだめだから、と言ってなまえと小南を連れて部屋を出て行った。
***
額にひんやりとしたものを感じて目を開けると、なまえが見えた。どうやら額に冷却シートを貼ってくれたところだったようだ。おれが起きたことに気づいたらしく、謝られる。
「起こした?ごめん」
「いや、大丈夫」
首元を触れられて、少しは下がったみたいだね、と言った。確かにそう言われると朝よりすっきりしたような気がする。
「レイジさんがお粥作り置いてくれてるからあとで食べなよ」
「んー」
「そういえば、さっきなんの夢見てたの?」
「え?」
「すごく穏やかな顔だったよ」
寝ていたのにそんな表情をしてたのか。少し恥ずかしい。誤魔化したところでなまえにはバレてしまうので、大人しく告げる。
「昔の夢見てさ、」
「昔?」
「昔も風邪引くたびになまえにバレてたじゃん」
「あー」
納得、といった感情がうかがえた。なまえのサイドエフェクトは本来こういう使い方をするのが正解なんだろう。
「あたしもおんなじこと思い出してた」
「懐かしい夢だった。しかしなまえ本当に毎回気づいてたよな」
「そりゃ、迅の風邪に気付くのがあたしの役目だと思ってたからね」
照れながらそう言ったなまえの顔に既視感を覚えた。