――今日の天気は一日中晴れ。ですがところによりにわか雨に見舞われることでしょう。傘を持つのを忘れないでくださいね。
そう言っていたお天気お姉さんの言葉通りにしてよかったな、と目の前の光景を見ながら思う。学校を出て玉狛支部に向かおうとしたら突然土砂降りの雨に降られた。折りたたみ傘は持っていたので、学校を出てもいいのだが目の前に傘を持っていないのか、呆然としている人がいる。見覚えがあるなぁ、と思って必死に考えると米屋先輩と一緒に居る人だということを思い出した。いつ見ても顔色の悪そうな先輩。名前は時枝くんが教えてくれた。確か――三輪先輩、だったか。話しかけていいものか悩むが、もし三輪先輩がこれから任務なら困るだろう。一応声をかけてみることにした。
「あの、」
「?お前は」
「一年のみょうじです。何度かお会いしましたよね」
「何か用か」
「三輪先輩傘がないなら貸しましょうか?」
「結構だ」
「でも先輩これから任務なんじゃ」
「お前に気にされることではない」
三輪先輩は頑なに断ってくる。あたしなにかしてしまったっけ?身に覚えはない。苛立っているのか軽く舌打ちをされた。感じ悪い。伝わってくる感情もあたしへの嫌悪しかなくて気分が悪い。
「濡れて任務行って風邪引いたらどうするんですか!」
「裏切り者の施しは受けない!」
突然大声で言われてビックリした。先輩は鋭い視線であたしを射殺すかのように見る。殺意にも似た感情を向けられたのが分かる。
「裏切り者?なんのことですか」
「お前、玉狛の人間だろう」
「そうですけど」
「だからお前は裏切り者なんだ」
言っている意味がよくわからなかった。三輪先輩は何もわかっていないあたしにさらに苛立ったのか、さっきよりも大きな舌打ちをして雨の中走って行ってしまった。その背中が消えるまで見ていたけれど、心の中に何かもやもやとしたものが残る。雨足がさっきよりも弱まったので玉狛支部に向かうことにした。
「裏切り者ってなに」
玉狛支部に着いて、迅がリビングで陽太郎と遊んでいたので、すかさず掴みかかって聞いた。手荒いのはいつものことなので気にしないでほしい。迅も急なことなので驚いた表情を浮かべている。
「おいおい、急にどうした」
「裏切り者って言われた」
「誰に」
「三輪先輩」
「あ~」
三輪先輩の名前を出すと迅は納得がいったという表情を見せた。さっきの戸惑いという感情からどう説明しよう、と次に悩んでいる感情に切り替わったのが分かる。ちょっとこっちに座りなさい、と迅と陽太郎の近くに座らせられた。
「なまえには派閥の話をまだしてなかったかぁ。てっきり小南や京介から聞いてるかと」
「派閥?」
「そう。今のボーダーには派閥が三つあるんだよ」
迅の説明によると、現在のボーダーには派閥が三つあって、城戸さん派、忍田さん派、そして林藤さん派に分かれているという。城戸さん派は近界民断固殲滅派で、忍田さんは近界民に恨みはないけど街の安全優先派、林藤さん派は近界民仲良くしようぜ派とのことだった。そんなややこしいことになっているなんて知らなかった。あたしは桐絵も迅もここに所属しているからその流れで所属しているだけだし。
「んで、お前に裏切り者って言った秀次は城戸さん派な」
「なんとなく理由は分かった」
「まぁ、あそこまではっきりした派閥意識持ってるやつも秀次くらいだから気にすんな」
「ん」
「それに、お前はお前用のトリガーを使ってる限り玉狛所属になっちゃうんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
俺たちのトリガーは特殊だからなって。そんなものなのだろうか。確かに本部規定のものからかなり逸脱しているから仕方ないのかも。自分でも納得できたところで迅にお礼を言って自分の部屋に戻ることにした。今日は宿題が多かったからさっさと済ませなきゃ。桐絵が来たらトレーニングに付き合ってもらう約束だから。