広報イベントに戦闘員を参加させるとき、嵐山と柿崎に対して外部の人間からの評判があまりに良く、優先的に参加をお願いするようになった。二人とも人が好いので、毎回快諾しくれていて、それに甘えっぱなしの日々だ。
メディア対策室としても本格的に活動して一年が経過した頃、嵐山から相談がある、と言われて、メディア対策室に招いて話を聞くことになった。夕方にメディア対策室行きます、という話だったので、朝から仕事に集中して十五時頃にはあらかたの仕事を終わらせておく。各企業などからの問い合わせのメール対応をして、返し切ったところで自分のデスクで一息ついた。タイミングを見計らったかのようにメディア対策室のドアがノックされる。どうぞー、と声をかけると、ドアが開いてひょっこりと嵐山が顔を出した。
「嵐山くんいらっしゃい」
「失礼します」
部屋の中に嵐山を招き入れ、最近作った応接ゾーン─と言っても小さめのソファとテーブルを置いただけだが─に座るように告げる。自分はデスクから立ち上がって、備え付けの冷蔵庫から自分のペットボトルと来客用のミネラルウォーターを取り出した。
ソファに腰を下ろした嵐山にミネラルウォーターを差し出し、机を挟んだ反対側のソファに座りながら自分のペットボトルをテーブルの上に置く。それから用件を聞こうと口火を切った。
「それで、相談って?」
尋ねられた嵐山はあの実は、という前置きとしてから本題を話し始める。
「自分の隊を組みたいと思っていて」
「隊を? まだ組んでなかったんだっけ」
先日から導入されれることになった隊制の話はメディア対策室にも届いていた。戦闘に関わるところは関与範囲外なので、へぇ、そういうことが始まるんだなぁ、くらいに聞いて、それ以来そのままだったけれど。
「それで、自分勝手に隊を組んでもいいのだろうか、と思って、相談に来ました」
「自由に組んでいいと思うけど……。わたしにはよくわからないけど、なんかポジションとかでバランス見たりしなきゃいけないんでしょう?」
隊制の導入の話を聞いてから、小南に基地で出会って大変なことするんだね~、なんて話しかければ、旧ボーダー時代から考案されていたもののだと教えてくれた。
小南は隊をどうするのか聞けば、支部は支部の中で作る必要があるから、木崎とゆりと組む予定、みたいな話をしたのだ。だからてっきり嵐山もすでに組んでいるのだと思い込んでいた。
「柿崎と一緒にやろう、って話はしていて」
「あっ、それすごい助かる」
隊で防衛任務のシフトなども調整される話は聞いているので、二人に広報イベントに参加してもらうときにシフトを調整してもらいやすい。
そこまで聞いて自分たちにも関係があることを理解した。
「広報イベントのことはそこまで気にしなくていいよ? 昔より隊員の数も増えたし、嵐山くんたちが都合つかないなら、他の子を探すし」
「でも、また一から広報のこと説明するんですよね? 大変じゃないですか?」
「あ~……まぁ、それは否定しない」
嵐山と柿崎みたいに素直な人間だったらいいけれど、癖のある子とか職員に反抗的な子がいないわけではない。
たまにおまえらは戦わねぇくせに! と癇癪を起こして苛立ちをなまえに向けて怒鳴ってくる子も少なからずいる。
けれど、それは別に悪いことではないし、当たり前のことだ。
実際問題、大人のくせに自分は戦闘員になれない。だからこうして日々メディア対策という範囲で戦場で戦う子の負担をすこしでも減らせたらいい、と思いながら仕事をこなしているわけだけれど。
「二人がな~最初から完璧すぎたからなぁ~」
「そんなことないですよ」
「いや、そんなことありますよ」
未だに忘れられないもん、嵐山くんが初めて参加した広報イベントのこと、と告げると、嵐山は照れたのか視線を右下に下げた。それが年相応に見えて和んでしまう。
若者は初々しいなぁ、と思ったことは口にしないでおいた。
結局、相談の結果としては、今後も広報活動に参加する方向性は変えないということで。隊に勧誘する子に嵐山と柿崎は広報イベントに参加することがあるから、他の隊よりシフトの調整が多い、という説明を先にすることでまとまった。
「隊に誘う子はもう決まってるの?」
「何人か気になっている人がいるので、声をかけてみようと思ってます」
「上手くいったらいいね」
「ありがとうございます」
すっきりした顔でお礼を言う嵐山がメディア対策室から出ていくのを見送って、自分のデスクに戻った。
ボーダーで戦闘員をしている子たちを見ていて思うが、みんないろいろなことをよく考えていると思う。自分が同じような年齢のとき、絶対こんなにたくさんのことを考えていなかった自信しかない。嵐山と柿崎の隊の結成がうまくいきますように、と勝手に願っておく。
数日後、嵐山と柿崎がメディア対策室に足を運んで、隊を結成した報告にやってきてくれた。
応接ゾーンに二人を通して、自分用にストックしてあったペットボトルの紅茶を差し出す。良い報告に思わず大きめの声で喜んでしまった。辺りに自分の声が響き渡った気がする。
「え、おめでとう~! 無事見つかったんだね」
「はい。あ、それで、少し相談があって」
先日相談に乗ったばかりだというのに、さらに相談があるのだ、と嵐山が言う。二人を座らせたソファからテーブルを挟んだ反対側のソファに腰を下ろしながら問いかけた。
「相談?」
「俺と柿崎が広報イベントに参加することが多い、っていう話を隊員にしたら、」
「自分たちも参加できますかって言ってくれて」
二人の話を聞いて思わず立ち上がり、机をバンッと叩いてしまった。そんなにいい子たちがいるのか! と感激による行動なので、物音が大きかったのは許されたいところだ。
「そんないい子たちと隊を組むなんて……二人とも人を見る目があるんだね……」
思わずうなっていると、二人は照れたように笑って、いや引きがよかっただけです、なんて微笑んでいた。自分としては広報イベントに参加してくれる子が増えるのは嬉しい、と告げた上で、念のため根付に確認させてほしい、と時間をもらうことにする。
今日に限って根付が一日外出のため、すぐに確認することができないのが悔やまれた。
「参加したいって言ってくれてる子たちの名前だけ聞いておいていい?」
「もちろんです」
柿崎が聞かれると思って、と言って、全員の名前を書いた紙をポケットから出して差し出してきた。
準備が早くて助かる。ふむふむ、と頷きながら名前を確認した。
時枝充、佐鳥賢、綾辻遥。
最後の子がオペレーターというポジションなのだろうか、と推測してみる。
「まぁ、二人が見つけてきて、それでイベントに参加したいって自分から言ってくれる子たちだから、わたしとしてはなにも心配してないけど、念のためデータベースとか確認させてもらうかも」
「わかりました」
「みんなに伝えときます」
「ありがとう。悪用とはか別にしないから安心してね」
冗談で茶化してそんなことを言うと、二人は目をきょとん、とさせて、それから街中で見かける高校生と変わらない笑みを浮かべつつ、あはは、と声を上げる。
「それこそ、あなたがそんなことするなんて思ってませんよ」
「おねえさんが真面目なのは、俺らだってよく知ってますから」
ボケたつもりがすんなり真面目に肯定されてしまって、肩透かしを食らった気分だ。
この件は一旦確認してから、結果が分かり次第、嵐山のスマートフォンに連絡を入れるということで話がついた。
二人が差し出した紅茶を飲み切り、それじゃあ訓練室に戻ります、と言うので、メディア対策室の入り口まで見送る。
「明日には室長に確認できると思うから、ちょっと待っててね」
「はい。確認でき次第でいいので」
「そういえば二人とも今日のこのあとの予定は?」
「夜シフトに入ってますね」
「大変だ。がんばって」
「ありがとうございます」
これから防衛任務だという若人たちに制服のポケットに入れてあった飴を二つ差し出す。
「頑張ってる若人にこれを上げよう」
二人ともそれを素直に受け取った。ありがとうございます、と二人とも口を揃えてお礼を言ってきた。
お礼を言うのはこちらなのにな、と内心でつぶやく。
メディア対策室を出ていく二人にその背中が見えなくなるまで見送った。
自分のデスクに戻って椅子に座ってスリープモードにしてあったパソコンを起動させる。さきほど聞いた三人の名前を自分の権限からアクセス出来るデータベースにアクセスして情報を引き出した。万能手の時枝に狙撃手の佐鳥、オペレーターの綾辻と情報が出てくる。佐鳥と時枝が同い年で、その一つ上が綾辻らしい。
年齢を確認すると同時にいつも感じる申し訳のなさが頭の中に浮かぶ。中学生や高校生などが平然と戦闘に出してしまっていることに慣れてはいけないと常々思っていた。一般職員で普通の大人である自分だからこそ忘れずにいたいと思うのだ。
嵐山と柿崎が来た翌日、メディア対策室にやってきた根付に真っ先に嵐山から聞いた話を伝えた。説明をするために念のため三人の資料を印刷してデスクに座っている根付に提出をする。
資料を見ている根付を尻目に自分の業務を行った。メールがいくつか溜まっているのでそれに返信していく。メディア露出し始めたからか、ここ最近メールの問い合わせが多くて仕方がない。ボーダーという組織─ひいてはボーダーが使っているトリオンやトリオンに関するテクノロジーに興味があるのだろう。トリオンやトリガーについては、自分も知っていることはそんなに多くはない。一般職員は大まかなことしか知らされていないらしいし、きっと自分自身も知らされていないことも多くあるだろう。それは普通のことだし、それくらいでちょうどいいと思っている。
「この子たちと、嵐山くん、柿崎くんの五人で隊を組む予定だそうです。それでその三人も手伝えることがあるのであれば、広報活動に是非参加したい、とのことで。どうされますか?」
資料を手に持って吟味する根付の姿を見ながら、素行も悪くなさそうだしちょうどいいと思う。けれど、求められてない答えは口にする必要はない。
「うん、いいんじゃない?」
「じゃあ、問題なさそうって嵐山くんに連絡しておきますね」
「頼んだよ」
無事オーケーが出たので嵐山に聞いてあった彼のメールアドレスにその旨を送る。最後に返信は不要だと書いておいた。すぐに返信は来ないだろうし、きっと今の時間は授業中で学校だろう。自分が学生のときなどは学校に携帯電話の持ち込みは禁止されていたが、最近の三門市内の学校は使用しなければ持ち込みは可能らしい。これも小南から教わったことだ。
根付とふたりで今週のスケジュールを確認しながら業務内容を整理する。今週はスポンサー候補の企業の整理をして唐沢にリストアップすることにした。手を上げてきている企業の情報を収集してある程度妥当な数に絞る必要がある。
目新しいボーダーという組織に興味を示している企業は少なくないのだ。小さな三門市内の中小企業から全国展開しているような大企業まで、幅広い層から視線を向けられていることを実感させられている。
数百ある企業リストと向き合いながら、お昼休みまでに終わらせるぞ、と意気込んだ。
自分の勤務時間は基本的に九時から一八時で、昼休み一二時から一三の間の一時間だ。業務内容によってはずれたりするし、食べ損ねることもままある。ボーダーの食堂を利用することも多く、昼に食堂に行くと今ではすっかり顔見知りになった調理員と顔を合わせてお互いを労い合う。
昼の食堂というはそこまで人が多くない。この時間帯に利用するものは基本的に職員なので人がそこまでいないのだ。学生たちはシフトに入っているし、シフトを終えた人もそのまま学校に登校したりする。だから、この時間帯はひとが少ないのだ。
食堂の入口に掲げられているホワイトボードの内容を確認する。今日の日替わり定食はAが天丼と書かれていて、Bはカレーと書かれていた。入口横の券売機でAの券を購入して、それを食堂のカウンターへと持って行く。カウンターからお疲れ様、なんて声をかけられてそれに同じ言葉を返す。
置かれているトレーと箸を取って天丼のレーンにいる調理員に食券を渡した。少し待てば天丼が出てくる。
付け合わせにほうれん草のおひたしがついていた。
それらをトレーに乗せて、次はみそ汁の入っているデーブルまで移動する。茶碗八分目までみそ汁を注ぎ、すでに天丼と付け合わせが乗っているをトレーにみそ汁も乗せて空いている席を位置取った。
トレーを机の上に置いて椅子に腰を下ろす。合わせていただきます、と両手を合わせて挨拶をした。目の前で湯気を漂わせているみそ汁に口をつけ、ほうれん草のおひたしを口に運ぶ。それから天丼を食べれば、相変わらずここの食堂は美味しいな、とかみしめる。入職して最初は自炊しようかと思っていたけれど、数百円でこの食事にありつけるのだから、そっちの方がお得だな、と思って今は夕食くらいしかきちんと自炊をしていない。
ひとりさびしく学食で食事をしていると、空いていた目の前の席に誰かが腰を下ろした。視線を上げて目の前に座った人物を見る。そこにはたまに見かける男性が座っていた。見た目から推測すると大学生くらいだろうか。他に空いている席があるにも関わらず、なぜわざわざ自分の向かいに座ったかわからず、内心で困惑していると急に声をかけられた。フルネームで名前を呼ばれて、それから確認をされる。呼ばれた名前と自分の名前に相違ないにので返事をした。
「そうですけど。そちらさまは?」
「東です。東春秋。女性に聞くのも失礼ですけど、おいくつなんですか?」
「本当に失礼だね─なんてね。今年で二五です」
「俺は二二なので俺の方が年下ですね。だから敬語でなくて大丈夫です」
「じゃあお言葉に甘えて。東くんは大学生?」
「はい」
「三門市立大学?」
「そうですよ」
「じゃあ後輩だ」
「あなたも三門市立大なんですか?」
「経営学部だったよ。ちなみに高校は六頴館」
「俺もです」
同じ高校・大学出身と言うことで初対面にしては距離が縮まるのが早かったと思う。自分が教わった教授が現役で東が講義を取って居たりするので思いの外話が弾んだ。
サークルに顔を出すとか、大学院などに進まない限りは卒業後など大学に足を踏み入れることもない。実際卒業以降は自分もまったく足を踏み入れなかった。踏み入れる用事がないというか。孤独に食事を済ませていたので話相手のいる食事が久しぶりで、居心地のいいものとなっていた。東が後輩だったこともあるかもしれない。
食事を終えてごちそうさまでした、と両手を合わせて〆の挨拶をする。東はまだ食べ終わっていないようなので、先に失礼させてもらうことにした。
「食事に付き合ってくださってありがとうございました」
「タイミングあったらまた付き合ってね」
「もちろん」
「じゃあそろそろメディア対策室に戻るよ」
「お疲れ様です」
「東くんもおつかれー」
東に挨拶をしてその場を後にする。程よく膨れたお腹に幸福度が上がる。メディア対策室に戻りながら、午前中で終われなかったリストアップの続きに勤しむことにしよう、と見当をつけた。
嵐山隊が次に参加する広報イベントの打ち合わせをするためにメディア対策室に嵐山隊の五人を呼んだ。嵐山と柿崎と顔を合わせたのは先日以来だ。メディア対策室に招き入れるなり落ち着かない様子の佐鳥を見て、思わず笑みを浮かべてしまった。応接ゾーン五人を案内して、テーブルを囲うように置かれた六つの椅子に適当に座るように言う。
席に着く五人を見ながら、少し待ってて、と一言入れてから応接ゾーンから出て、メディア対策室に備え付けてある冷蔵庫まで移動してドアを開けた。からあらかじめ買っておいたペットボトルのジュースを取り出す。リンゴジュース三本とオレンジジュース三本だ。余ったものを自分が頂戴しようと一本多く持って来た。
それらを持って応接ゾーンに戻ってテーブルの上に六本のジュースを並べる。好きなものを選んでいいよ、と一言添えると、年下から選ぶように柿崎が言った。
年上の言葉に甘えて佐鳥がオレンジジュースを、時枝がリンゴジュースを一本ずつ手に取る。
次に綾辻がリンゴジュースを手に乗って、残りのリンゴジュースを嵐山が、オレンジジュースを柿崎が取った。自分は最後まで残ったオレンジジュースだ。
空いている席に自分も腰を下ろして本題に入る。
「えー、今日はお集まりいただきありがとうございます。メディア対策室職員のみょうじなまえです」
名前を言って自己紹介をする。自己紹介と言っても職員であることと主にメディア対策を主に担当をしていることを告げた。メディア対策の実務もかいつまんで説明しておく。
「今回から、佐鳥くん、時枝くん、綾辻さんが手伝ってくれると聞きました。ご協力いただきありがとうございます」
まずは最初に頭を下げる。ランク戦だの個人ランク戦だのをするのが、本来の隊員の仕事内容だと聞いていたので、メインの仕事でない面での仕事を受けてくれたことへの感謝を忘れてはいけない。
やらなくていいことをそのまま受け入れていてはそれはやりがいの搾取と何ら変わりない。
搾取はなにも生み出さないし、なんならマイナス勘定すら生み出す場合もある。
大人である自分が頭を下げたことに驚いている三人に内心で笑ってしまう。そりゃそうか、と思いながら、さっそくなんだけど、と口火を切った。
「次にあるイベントで、現役隊員に聞く質問コーナーみたいなのを設けたいと思っていて。みんなにはその対応をお願いしたいの」
質問コーナーでどういう意図があるのかとか、どういった層をターゲットにしているのかなどを説明した。時折佐鳥や時枝などから質問があがるのでそれに答えていく。
「──ってことなんだけど、どう? 出られそうかな?」
「大丈夫だと思います」
「オレも」
「私も大丈夫そうです」
説明をした上で了承してもら得たので、さらに当日の流れなどを説明していく。嵐山や柿崎はもう慣れたもので説明にも、うんうん、と頷いたり、嵐山たちが実際に気になったことなども説明の際に追加してくれた。
あらかたの説明が終わる頃には、広報活動のイベントがどういったものか理解してくれたようだ。他に疑問が浮かんだりしたらその都度聞いてくれてくれていい、と言うのを忘れない。
手を付けていなかったジュースに手を付けるように告げれば、いの一番に佐鳥がジュースを開封してぐびぐびと飲んでいた。休憩するタイミングを設ければよかったな、と反省する。
「一応説明としてはこんな感じだけど、大丈夫かな?」
はい、と異口同音に言われた返事に頷きを返して、今日はこの場をお開きにすることにした。
全員がジュースを飲み終わったことを確認して、ペットボトルはなまえが回収して捨てておく。メディア対策室をあとにする五人にまた前日にリマインドのメールを送る約束をして見送った。これからランク戦や狙撃訓練だと言っていたので、この組織にいる学生たちは忙しいなぁ、と思う。
広報イベントの日は自分はいつも車で移動する。
今までは五人乗りの乗用車に自分と根付と嵐山と柿崎を乗せていたけれど、流石に六人で車に乗るのは難しいので上層部に七人乗りの車を購入してもらうように頼んだ。ギリギリではあるけれど昨日納車された車を見る。前に運転していたものよりも一回り大きいそれに、おぉー、と感心した声が出た。SUVなんて値が張る車を買ってくれるわけないだろうな、と思いながら稟議書を上げたけれど、あっさり決裁が降りるとは思っていなかったのだ。
嵐山たちとの待ち合わせ時間まであと一時間ある中で、新しい車に乗り込んでパンフレットやビラなどをトランクに乗せていく。
今日は一般市民へのボーダー周知イベントなので子どもからお年寄りが対象なのだ。小さな子どもにはボーダーってこういう組織ですよ、と宣伝して、大人やお年寄りにボーダーってこんなに安全な組織ですよ、と広めることに重点を置いている。
嵐山隊にやってほしいのは安全な組織ですよ、という部分を担当してもらいたいのだ。現場の声ほど説得力のあるものはないと思っているので。
荷物の大半をトランクに乗せ終わった頃、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、待ち合わせまでまだ一五分もあるのにそこには嵐山の姿があった。
「嵐山くん、おはよう」
「おはようございます。なにか手伝えることはありますか?」
「今は大丈夫。ちょうど今荷物積み終わったしね」
「もう少し早く来たらよかったですね」
「今でも早いくらいなのに。気にしないで」
嵐山はいつも早めに来ては資料を積むのを手伝ってくれている。最近はそういうのも申し訳ないな、と思うので結構ギリギリの時間を伝えるようにしていた。
広報イベントは基本的にショッピングモールなどの場所を借りて行うことも多く、そうすると来店数が多い土日で実施することが多くなる。今日も日曜日で、三門市内で一番大きなショッピングモールで行うことになっていた。
休日なんて友達と遊びたいだろうに、付き合ってくれる嵐山達に頭が下がる思いだ。
待ち合わせ時間の十分前になると全員がそろって驚いた。
偏見でも申し訳ないけれど、佐鳥などはぎりぎりに来そうなイメージがあったのだ。
「みんな早いねー。五分前とかでも全然大丈夫だったのに」
なんなら遅刻を想定して一五分くらい余裕をみた時間を告げてあったのだ。早めに行くことにはなるけれど、設営の関係もあるし全員揃ったのでそのままショッピングモールに向かうことにした。
車に乗り込んで後部座席にみんなが乗り込んだのを確認する。シートベルトを受けるように指示して、自分もシートベルトを着けた。
鍵を回してエンジンをかける。そのまま発進させてショッピングモールへの道を走らせることにした。
車が動き出すと同時にうおー、と佐鳥が声を上げる。理由が分からず、忘れものでもしたのかと思って問いかける。
「どうしたの? なにか忘れもの?」
「いや! おねえさん車の運転するんですね……」
「え? あぁ、運転するのは得意だし好きだね」
前職のときから車の運転をすることが多かったから、と理由を説明すると、なるほど、と納得した声が聞こえた。
さっきの会話で以前嵐山と柿崎とした会話が想起され、思わずふふ、と息を漏らして笑ってしまう。
「え? なんで佐鳥笑われたんです?」
「佐鳥くんのことを笑ったんじゃないよ。前にね、嵐山くんたちとも似たような会話をしたの思い出しちゃって」
柿崎がそういえばそうでしたね、と同意して、嵐山も覚えているのか、うんうん、と頷いている。
そんなに驚かれる回数が多いと、自分が他者からどう見られているのか気になるところだ。
「根付さんも運転は上手だよって言ってましたね」
「そういえばそんな話もしたね」
しばらく車を走らせると今日の活動場所であるショッピングモールが見えてくる。大規模侵攻のときにここはあまり被害が出なかった。自分も学生の頃に利用していたけれど、そのときよりすこし古くなったように思う。ショッピングモールの駐車場に車を止めて、先に運転席から降りた。
嵐山たちは換装してから出てくるそうなのでそれを待つ。車のキーをポケットに入れて、これからの算段をつけることにした。
待っていると全員換装になり終わったらしく、真っ赤な隊服に包まれた姿を見せる。隊服を作ると聞いていたけれど、まさかこんなに目立つ色にしていると思わなくて度肝を抜かれた。
驚いているこちらの表情に嵐山たちが今度は不思議そうな顔をしている。
「どうかしましたか?」
「ごめん。初めて隊服見たからびっくりしちゃった」
隊服は確か隊員たちの自由にしていいと小耳に挟んだことがあるので、きっとこの色を選んだのはかれらなのだろう。綾辻はオペレーターなので自分と同じ服装になっていた。
「嵐山隊って赤色なんだね」
見たことなかったからびっくりした、と言うと、柿崎が合点がいったような顔をする。
「前に会ったの隊結成の話のときでしたもんね」
「そうなんだよ」
だから真っ赤な隊服で驚いちゃった、とおどけて言ってみせると、嵐山がにこにこと笑みを浮かべて言った。
「かっこいいですよね!」
「あ、うん」
「え……」
予想と違う反応をしてしまったのか嵐山がしゅん、とテンションを落としたのが分かる。やべ、と気持ちを持ちなおさせるために明るい声色で話を続けた。
「赤ってヒーローの色だもんね」
この返答はお気に召したらしく、いつもの嵐山に戻った。
話がひと段落したのでトランクに乗せてある台車を先に下ろして、その次にパンフレットやビラなどを台車に乗せる。ずっしりと重さがあり、腰に力を入れて押そうとしたところで、台車の持ち手が嵐山に取られた。
「力仕事なら任せてください」
「……じゃあ任せるね」
こういうときの嵐山はなんとなく我を通すタイプだという印象があるので、大人しく台車を彼に押してもらうことにした。他の荷物は多くないので自分が持つ。ショッピングモールの中へ六人で入っていき、事前に話を通してあったので二階のイベントホールに直接向かった。
二階に到着するとすでにショッピングモールの社員がいて、すでに設営の準備に取り掛かっているのが目に入る。嵐山たちにはそのままゆっくり来てくれたらいいよ、と言い残して駆け足で社員の元で向かった。
「おはようございます! 本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。少々お待ちください」
声をかけた社員がフロアマネージャーを呼ぶ、というので責任者が来るのを待った。
するとその場にいたらしいフロアマネージャーがやってくる。
他の社員とは違ってきちんとした装いの様子に引き締まる思いだ。会釈をして制服のポケットより名刺ケースを取り出して名刺を一枚取し差し出す。
「界境防衛機関ボーダー、メディア対策室所属のみょうじなまえです」
最後に名前を名乗れば、頂戴します、と名刺が受け取られる。
「この度はお話伺っております。隊員もご参加されるとのことでしたが……」
「あ、はい。あとから追ってくる予定です」
歩いてきた道を追ってくるはずなので背後を振り返ると、ちょうど嵐山隊が到着したところだった。
「彼らが現役隊員となります」
やってきた嵐山隊の姿を指さすと、フロアマネージャーは驚いた表情を浮かべる。それはそうか、と理解してしまった。自分だって最初は驚いたものだ。こんな若い子どもたちが戦うのか、と。
「本当に子どもなんですね」
なんの感情もうかがえない声に視線が目の前のフロアマネージャーを捉えた。
感情というのは目に灯る。目の前の男の目には非難の色が灯っていた。
「彼らのような若い人に頼らなければならないことが歯がゆい、とは常々思っております」
これは本心だ。歯がゆい、申し訳ない、不甲斐ない。いろいろな感情が自分の胸に浮かんでは消える。子どもたちと接していることがそれなりにあるからこそ思っているのだ。どうして大人は彼らを守ることができないんだろうか、と。
──だからこそ、彼らにはできない大人としての戦い方で、別の側面から彼らを守ることにしたのだ。
非難の視線が自分に向くことを願ってそう告げると、なまえの言い分に気付いたフロアマネージャーはあとはこの場に居る社員へ申し付けてください、と言付けて去っていった。
「おねえさん」
「みんなここまで運んでくれてありがとう」
じゃあ、準備をしようか、と声をかけてビラとパンフレットを置くスペースや相談スペースなどを設営していく。
相談コーナー、配る用のビラとパンフレットをサイトでも公開しているプロモーションビデオを再生するタブレットを用意するのだ。すべて持ち込んでいるので、それらを台車に乗せた荷物の中から取り出した。
嵐山隊の五人に手伝ってもらう仕事を振り分けて渡していく。
綾辻にはプロモーションビデオ再生用のタブレットの設定を、佐鳥と時枝にはパンフレットとビラをテーブルに並べてもらい、嵐山と柿崎には相談スペースの設営をお願いしていく。
みんなそれぞれ作業に入ると問題が発生することなくてきぱきと準備を進めてくれていた。
相談スペースはテントを張ることになっていたが、柿崎はアウトドアでキャンプに行くこともあるそうなので、テントの組み立てなども手間取ることなく組み立てている。これはラッキー、と思いつつ、自分も相談コーナーのレイアウトに悩んでいると、テントの準備を終えたらしい嵐山が隣に立っていた。
「どうしたの、嵐山くん」
「大丈夫、ですか?」
なまえの様子を伺うような視線に、先ほどのやり取りから察してしまったのだろう。改めて聡い子だと思った。
「大丈夫だよ。ああいうのは想定の範囲内だしね」
むしろ心配させてごめんね、と言えば、いえ、と煮え切らない顔をさせてしまった。子どもなのだから、大人からの気遣いは素直に受け止めてほしいと思う。
「きっと今からの方が大変だから、お互いしっかりやろうね。嵐山隊長」
「はい!」
気合を入れ直して開店時間になるまでに準備を終わらせ、やってくる人に備える。
イベントは盛況でかなりの人数に足を運んで貰うことができた。小さな子どもから大きな大人まで幅広い年齢層だったと思う。小さな子は嵐山隊の隊服に目を輝かせていて、その親もかっこいいねー、なんて同意をしていた。中学生や高校生くらいの子にはビラを渡してボーダーで一緒に働きませんか? と声をかける。大人や年配の方は主に自分が対応した。最悪なにか物を投げられるかもね、と根付と言っていたけれどそんな様子もないことに安堵する。
年齢層が高い人からは予想通りとなんというか、子どもを戦わせるなんて、という非難やそしりなどが多かった。予想できていたから不甲斐なくて申し訳ありません、と頭を下げるだけだ。けれど、この街を守るためにも必要なことなんです、と力強く言えば渋々ではあるけれど納得してくれる人もいた。
大きなトラブルもなくイベントは終了し、設営機材などはショッピングモールに返す。最後に社員や来ていたフロアマネージャーに挨拶をして帰ることにした。
「本日は場所を貸していただきありがとうございました」
「いえ」
「また機会がありましたらよろしくお願いいたします」
お礼と次回もあれば、と意味を込めて挨拶をすると、フロアマネージャーの男はまぶしそうな眼を隊員たちに向けていた。
「えぇ、また次回もご利用ください」
また嫌味のようなものを言われるかと思ったけれど、思っていたのと違う反応にお、と思う。嵐山隊が気持ちのいい好青年ばかりだからか、懐柔されてしまったのかもしれない、と勝手に予想をたてた。
次の予約も取り付けられそうな反応に思わず笑みを浮かべてしまう。
もう一度最後に礼を言ってその場をあとにして嵐山たちの元へと戻った。
「みんなおつかれさま」
五人の元へと向かえば、すこし疲れた様子の姿が見えた。さすがに一日中見知らぬ人と会話をすることに疲れてしまったのかもしれない。自分は仕事だから、と思えば何でもないことだけれど、そういう切り替えスイッチのようなものを持っていない子たちは難しいだろう。
一旦車に戻ろう、と声をかけてイベント会場を出ていった。
駐車場に戻ってきて、トランクに余ったビラやパンフレットと台車をトランクに乗せる。来たときと同じように五人に先に中に入ってもらい、換装を解いてもらった。換装が終わると声をかけられたので車の運転席に乗り込む。
疲労の色が見える五人の姿を見ながらエンジンをかけて車を発進させた。そのままボーダーに直帰してもよかったけれど、ひとつの案が浮かんだので実行する。予定していないことではあるけれど、まぁ怒られることはないだろう。自費で負担すればいい話なので。
「みんなにご褒美を買います」
運転をしながら宣言をした。
「ご褒美?」
異口同音に発された言葉に笑みを返す。
「今日一日頑張ってくれたみんなにおねえさんが奢ってあげましょう」
行先をM字の黄色のマークのお店だと告げると、あからさまに佐鳥がテンションをあげたのが分かった。
「好きなセット頼んでいいよ」
「しかもセット!?」
佐鳥の声が車の中に響き渡る。労働の後の食事やお酒は美味しいのだと知っているので、こういう反応を見るにやっぱり疲れていたんだろうな、と考えが合っていたようだ。
店に寄るのは時間がかかりすぎるので、そのままドライブスルーで購入して車の中で食べることにした。
事前に決めてもらったメニューをマイク越しに伝える。食べ盛りな青少年というだけあって、それもハイカロリーなものを頼んでいた。若者は元気だなぁ、と思いながら自分はチーズの入ったハンバーガーひとつとホットコーヒーで済ませる。
「おねえさん、食べないんですか?」
「食べてるよー。大人はね、これくらいがちょうどいいの」
ボーダーに戻ってからも仕事はいくつか残っているので、満腹感を得られるほど食べてしまうと眠くなってしまう可能性がある。だから小腹を満たすくらいがちょうどいいのだ。
会計を済ませて注文したものから自分の分だけを抜いて、残りを後ろの席に居る柿崎に渡す。五人からありがとうございます、ごちそうさまです、と言われてそれらを素直に受け取った。
「今日頑張ってくれたお礼。こちらこそありがとうね。またお願いすることもあると思うけど」
「結構楽しかったですよ」
「佐鳥も」
時枝や佐鳥の言葉によかった、と胸を撫で下ろす。綾辻もわたしもいい勉強になりました、なんて言ってくれて、参加したいと言ってくれた言葉に甘えてよかった、とあの日の自分の判断に感謝したい。ジャンクフード特有の香りが車内に漂っているけれど、こういうのも悪くないな、と思った。
§
嵐山隊が防衛任務とランク戦と広報活動を並行していることに罪悪感を感じながら、自分の仕事をこなしていたところで根付からひとつ課題が与えられた。
デスクで今日も今日とて大量のメールを返して、それから隊員募集のポスターをブラッシュアップしたりする。そんな中で根付がそういえばさぁ、と前置きをしてから言った。
「広報部隊欲しいよね」
「あー」
確かに嵐山たちは進んで広報イベントに参加してくれているけれど、彼らが専属であるというわけではない。実際、嵐山たちの都合がつかないときは、別の隊員にお願いしていたりする。そういう子はやはり場慣れしていないこともあって覚束なかったりするが。それが悪いとかそういうわけではなく、広報関連を専門に行ってくれる隊がひとつあればいいのにな、と思う。
「嵐山くんたちに打診してみます?」
「まぁ、それが妥当だよね」
外部からの評判もいい嵐山隊がやるのが一番無難だろう。近々打診しておきます、と返事をしてからは、と気づいて終わらせようとした話を続けた。
「流石に今と同じ業務内容ではだめですよね。彼らに何か見返りなり対価は必要でしょう」
「それはそうだよ。そこを考えるのがきみの仕事ね」
「うわぁ、やっぱり」
メリットを提示する必要であることに気付いて思わず頭を抱えてしまう。デメリットは思い浮かぶけれどメリットはそうすぐに思い浮かばないのだ。
「わたしはどこまで踏み込んでいいんですか?」
なにかしらの見返りを用意するとなれば、メディア対策室だけの話で済まないだろう。かといって自分がなにかを負担するのもおかしな話で。極端な話、イベント後にジャンクフードを奢るとしても毎回自腹は無理だし、経費ではきっと落ちないだろう。
「数日考えてもいいですか」
「構わないよ」
しばらく広報活動も落ち着いてるしね、と根付に言われた言葉で思い出した。そうだ、今日から一週間近く学生組はテスト期間なのである。こういうときに彼らも普通の学生なんだよなぁ、と実感するのだ。
テスト期間が終わる前に何かしらの答えが出せたらと思う。一旦目の前の業務の消化に専念することにした。
学生たちがテスト期間で大学生などを中心に防衛任務は回しているようだった。
業務がひと段落ついたところで食堂に向かい、今日はきつねうどんの気分だったので食堂前の券売機できつねうどんの食券を購入する。食券を持って麺類のレーンに食券を差し出せば、顔見知りの調理員に声をかけられた。
今日は日替わりじゃないんだね、と言いながら作られていくきつねうどんを眺める。麺を湯がいて作ってあるスープをどんぶりに入れ、それから同じように麺も入っていった。最後に油揚げが乗せられ、最後にねぎがかけられる。出来上がったものをカウンター越しに差し出されてそれをお礼を言いながら受け取った。
きつねうどんをおぼんに乗せて箸を取り、ウォーターサーバーで水を入れる。
食堂の空いている席に座ろうとすると、話したことのある東がちょうどいたので、彼の近くに座った。
なまえが椅子を引いた音で視線を向けてきた東が会釈をしてきたので、同じように会釈を返す。
先に食事をしている東を尻目にきつねうどんを咀嚼していると、食べ終わったらしい東に声をかけられた。
「お疲れ様です」
「東くんもお疲れさま。大学生は今防衛任務が多いんだって?」
「そうなんですよ。俺もちょうど連勤明けてって感じです」
「防衛隊員は大変だねぇ」
「まぁ、慣れてますからね。大学生組がテスト期間中は中高生が代わりに出てくれますし」
持ちつ持たれつってやつです、笑う東にこういう人間が人望を集めるんだろうなぁ、と思った。東と話しながらうきつねうどんを食べて、食べ切ったところで東もまだ席に座ったままだったので、出された課題のヒントを得られないかと話を持ち掛けた。
「広報部隊を作ろうかなって話が出てて」
「新しく作るんですか?」
「いや、できれば慣れている嵐山隊にお願いできないかって思ってるところ」
「それが無難でしょうね」
「で、そこで悩んでるのが広報部隊になることのメリットと言うか」
「今ってなにか渡してるんですか?」
「帰りにわたしがジャンクフード奢ってるくらい」
これも根付とかには黙ってるけど、と添えるのを忘れない。今後は優先的に広報活動に携わってもらうとなると厳しいものがある。
男子中学生や高校生の胃袋はブラックホールかと思うほどだ。
「あなたの考えとしてはどのくらい広報活動にかかわってもらいたいんですか?」
「出来れば優先的にしてほしいと思ってる。そのための広報活動だしね」
「なるほど」
うーん、と悩んでいるのか唸る東の姿にやっぱり難しいものがあるよなぁ、と納得する。手を顎に上げて考え込んでくれているであろう東に申し訳なくなった。軽い気持ちで聞いたのにまさかここまで悩んでくれると思っていなかったのだ。
「今って多分、防衛任務とランク戦と広報活動を三つを業務を並行してるってことっですよね」
「そうだね」
「どれか減らしてやれないんですか」
「広報活動は優先してほしいところだけど、ランク戦とか防衛任務って減らせるもの?」
「防衛任務はできると思いますよ。シフトの頭数に入れなければいい話なので」
最近は隊員数も増えてきてB級隊員もそれなりにいるので、と言われて気付いた。
「なるほど。その辺門外漢だから口出ししていいのかわからなくて。防衛任務を減らす方向で根付室長に話してみる」
「そうしてみてください」
東にもらったヒントを元に方向性が決まった。防衛任務を免除する代わりに広報活動を主にしてもらうのがよさそうな印象だ。念のためもう一つ気になったことを聞いてみる。
「ちなみにランク戦減らすって難しいもの?」
「ランク戦は元々ローテーションというか。毎回試合があるわけではなんですが、その一戦で順位が変動するので減らすのは説得しないといけないと思います」
「説得って上層部を?」
「嵐山隊を、ですね」
なるほど、と東に言われたことを頭の中で処理する。ランク戦と防衛任務ならランク戦の方が重要な印象を受けた。
「持ち帰って防衛任務の方で話しつけて、それから嵐山くんに相談してみるよ」
「そうしてやってください」
ボーダーで経験があって年上なのは大学生の東くらいだと聞いていたので、まさかここまで適切なアドバイスをもらえるとは思っていなかった。先ほど思った人格者という印象があながち間違いではないのかもしれない。
東と話を切り上げて、食器を返却口に持って行ってからメディア対策室に戻る。
メディア対策室に戻ると根付の姿もあって、午前中にあった来客対応は終わったらしい。自分のデスクに座ろうとしたところで、声をかける。
「戻りました」
「おかえり」
「広報部隊の件なんですが」
「あぁ、決まった?」
「決まったというか、根付室長に確認したいことがあります」
「なんだね」
「防衛任務を減らす、という優遇は可能ですか?」
「ほう。なんでだい?」
さきほど東と話した内容をそのまま伝える。
「嵐山くんたちって今は防衛任務、ランク戦、広報活動、と三つの草鞋を履いているようなものじゃないですか。だったらどれか減らせないかな、と広報活動が増える分を他で調整するというか」
「それで防衛任務の優遇か」
「広報活動だって防衛任務と同じくらい大事だと思っていますので」
防衛隊員は広報活動を馬鹿にする子もそれなりに居るけれど、広報活動に力を入れているからこそ、火の粉が直接隊員たちに降りかからないのだ。
表立って嵐山たちが立ってくれているから、そこが防波堤になっていると言っても間違いない。
広報イベントを行う中で心無いことを言ってくる人だって少なくない。そういう人間に対してフラットにだったり、力業でねじ伏せられるのが嵐山たちなのだ。この人材を逃がすには惜しい。
「東隊員から話を聞いたのですが、ランク戦は隊員たちにとって重要なものであるらしく、そちらを減らすのではなく、防衛任務の方を減らす方がいいらしいです」
「なるほどねぇ」
「あくまでわたしが想像できる嵐山くんたちとの折り合いのつけ方ではありますが」
「防衛任務の件は忍田本部長に聞いておこう」
「お願いします。その方向で大丈夫であれば嵐山隊に打診をする予定です」
「結果が分かり次第、きみにも共有するよ」
「お願いします」
一旦広報部隊打診の件は根付からの返事待ちということでひと段落ついた。
根付に話をした翌日には忍田からの判断を根付経由で聞くことができた。
防衛任務と同等に広報活動を扱うのであれば、広報活動分防衛任務は減らしていい、とのことだ。これでやっと下準備が終わり、嵐山たちに改めて打診することができる。
自分のスマートフォンでメッセージアプリを起動して、嵐山の連絡先を選択してトーク画面を呼び出した。
そこに時間があるときに話があるんだけどいる日はいつか、と打ち込んで送信ボタンを押す。
すぐに既読はならなかったので何かしらをしているのだろう。のんびり返事を待ちながら他の業務をこなしているとピロン、とスマートフォンから軽快な着信音が聞こえた。
スマートフォンを見るとロック画面に嵐山からの返信を表示している。全文を確認することができなかったので、通知をタップして内容を確認する。
候補日と時間帯の希望が書かれていた。
防衛任務とランク戦と訓練の合間で時間を見繕ってくれたのだろう。少ない選択肢に申し訳なさを覚えた
メディア対策室から嵐山隊の作戦室へと向かう。
嵐山隊がランク戦に参加するようになると作戦室が与えられ、最近の打ち合わせは作戦室で行うことが多くなっていた。
作戦室に入ると嵐山だけが居て中に招き入れられる。ソファに座るように言われてその言葉に甘え、ソファに腰を下ろしたところでテーブルを挟んで向かい側に座った嵐山に声をかけられた。
「改めてどうしたんですか?」
「嵐山隊にお願いがあってきたの」
「お願い?」
何の資料も持たずに現れた自分を見て、不思議そうな表情を浮かべる嵐山に笑みを浮かべそうになる。真剣な話なので笑みを噛み殺して本題は勿体ぶらずに告げた。
「正式な広報部隊を作ろうって話になったの。それを嵐山隊にお願いしたくて」
「広報部隊、ですか」
「今よりももっと本格的に広報活動に携わってほしいの。その代わりと言ってはなんだけど、防衛任務と広報活動でバランスは取らせてもらう予定でいるよ」
用件を告げると嵐山は悩む素振りを見せる。そりゃあ突然押し掛けてきて広報部隊になってくれないか、というのは悩むのも仕方ない。
他のメンバーともよくよく話し合うように言って、用件はそれだけだから、と笑みを浮かべてソファにから立ち上がる。
嵐山もつられたように立ち上がって入口まで見送ってくれた。最後にもう一度念押しをする。
「全員に意思を聞いてね。一人でも嫌だ、という話であればこちらも考え直すから」
「分かりました」
嵐山に見送られながら嵐山隊の作戦室をあとにしてメディア対策室に戻っていった。
広報部隊の打診をした三日後に嵐山が事前に一報を入れてから、メディア対策室にやってきたが、そこには悩んでいます、と言う表情を浮かべている。とりあえずいつもの応接ゾーンに通した。いつも打ち合わせするときに座る椅子に嵐山が腰を下ろして、自分も定位置に腰を下ろす。
「広報部隊のこと?」
「はい。防衛任務が減ることも悩みますし、隊のメンバーにも話したら佐鳥とかは乗り気だったんですが、柿崎は悩んでいるようでした」
さまざまな意見が出るのは目に見えていたので、不思議ではなかった。変化というものは良くも悪くも人の道を分けてしまうものだ。
「広報部隊になるって、今とそう変わらないですよね?」
「そうね。内容的には大差がないかもしれない」
「だったら今のままでも……」
「それだといつか嵐山隊のみんなが倒れちゃうよ」
社会人になってもキャパオーバーして倒れるひとも少なくない。中途半端にやるよりはここで一区切りつけよう、という考えもあった。覚悟を決めてもらうために、あえて強い言葉を使う。
「嵐山くん、わたしと心中する気はある?」
嵐山の目が見開かれて驚いているのが分かった。それから戸惑ったような声色で返事をする。
「心中、ですか」
「広報部隊になるってことはわたしの直属ってことになるし、それはつまり表立って市民の窓口になるようなものだよ。だから何もかもボーダーの中で模範的でいなくちゃならないの。つまり、きみたち─主にきみはわたしと一蓮托生になるなわけだ」
「だから心中、ですか」
「うん。物騒だけど分かりやすいでしょう? そういう諸々のことをよく考えてから返事をしてくれていいよ」
嵐山がわかりました、と返事をした。それに頷きを返すと、そうだ、と前置きをして話を続ける。
「もし、誰かが抜けるって言ってもそのまま嵐山隊が広報部隊になるんですか?」
「そうだね、いなくなる人にもよるけど、そういう選択をする人間がいたうえで、他のメンバー全員が広報部隊になることを反対しないのなら、そのままお願いしたいとは思ってる」
なまえの気持ちを告げると嵐山はまた悩む素振りをして、それから息を吐いた。自己完結でできる話じゃないのでため息が出るのもわかる。
「心中する覚悟ができたら教えて」
そう言い切ると嵐山もわかりました、と椅子から立ち上がって応接ゾーンから出ていく嵐山を見送る。嵐山もそれ以外の隊員も納得のいくように事が運べばいいと思う。
数日後、嵐山が先日と同じように一報を入れてからメディア対策室へとやってきた。前と同じように応接ゾーンに通そうと思ったけれど、あいにく根付が使っているところなので、自分のデスクに座って近くにある椅子を引っ張ってきて自分の隣に置く。その椅子に腰をかけるように言って、自分は仕事中に愛用している椅子に座る。
学生時代の先生との職員室での面談みたいだな、と思ったけれど口にはしなかった。
「それで、話っていうのは」
「心中する覚悟ができました。やらせてください」
目に力強さを感じて覚悟を決めてくれたのだと思う。多少厳しいことを言ったつもりではあるけれど、それを承知したうえで了承されたことを嬉しいと思った。自分だって組織のためになんでもしたいという気持ちは変わらないのだ。
「ありがとう。きみたちを矢面に立たせるからには、わたしができる限りですべてのフォローはするつもりだよ」
常日頃思っていることではあるけれど、改めて口に出した。嘘はないし、嘘にするつもりはない。もし、彼らが危険に晒されるようであれば、こっちはそれの身代わりになるくらいの気持ちでいるのだ。
「それで、柿崎が」
「柿崎くんが抜けるって?」
「はい」
先日の抜ける抜けないの話は柿崎のことだったか、と合点がいった。彼は人が善いから仕方がないのかもしれない。
きっと大きい目で見た組織への貢献よりも、目の前の防衛任務に重点を置いていたのだろう。
広報部隊というとやはり隊員の中ではそこまで良い印象はないのかもしれない、と思った。
「他の皆はやりたいって?」
「はい。これまでと変わらないのであればぜひに、とのことでした」
嵐山の返事に肩の荷が下りたおかげで、はーっと大きなため息が出た。安心してプレッシャーから解放されたような気分だ。
「おねえさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。嵐山くんたちが了承してくれなかったらどうしよう、って心配になってただけだから」
嵐山たちに頼りっぱなしな自覚があるので、これでだめでした、だったら根付にあれこれ言われたかもしれない。前の会社のときもミスをしたら結構あれこれ言われていたので。
「じゃあこれから嵐山隊は〝広報部隊〟ということで。早速いろいろ動いていきたいと思ってるからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
これから一蓮托生になるのだから、握手を交わそうと手を差し出すと、すこしだけ躊躇して嵐山に手を握られた。
自分よりも一回り大きくて骨ばっている手に、この子も男なんだなぁ、と再認識した。
用件を終えると嵐山は座っていた椅子を元の場所に戻す。それからまた詳細が決まったら連絡してください、と一言残してメディア対策室を後にした。
「話、まとまった?」
タイミングを見計らっていたように根付が現れて口火を切る。
「はい。広報部隊は嵐山隊でお願いします」
「それで手続きを進めよう」
広報部隊として表に出るにあたって必要になりそうなことを列挙していく。それに合わせて必要な書類を準備して根付に提出する必要があった。
ここから広報部隊が始まるのだと思うと、どこかふわふわとした気持ちになる。しばらくは様子見をして調整が必要であれば自分が出なきゃいけない場面もあるだろう。想像できる限りの懸念事項を思い浮かべてはメモ帳に書き出した。
広報部隊になったことをきっかけに、嵐山隊の面子を名前で呼ぶようになった。
提案者は佐鳥で、綾辻や時枝も同意してしまったので気付いたら名前で呼ぶことになっていたのだ。
なるべく嵐山たちに迷惑をかけないように心掛けて広報イベントを組むようにはしているけれど、それなりの回数を予定しているせいでそういうわけにもいかない。こういうのはサブリミナル効果のごとく行うことで、ボーダーという組織を身近なものだと認識してもらいたい意図がある。ボーダーってなんだよ、からまたボーダーがやってるね、まで持って行くことが大事なのだ。ただでさえ初見の人間には気味が悪いものだと映っているだろうし。招き入れられた嵐山隊の作戦室で、今後の広報としての活動の話をしていた際に、思い出したことを口にする。
「賢、この間テスト危なかったんだって?」
「誰からそれを……」
「充」
「とっきーなんで」
「賢がちゃんと勉強しないから」
時枝の言い分は正しい。広報部隊になることが決まって真っ先に告げたことは、表立って人の目にさらされるということは、なにもかも見張られているのと変わらないということだ。ボーダーの隊員なのに赤点だった、ボーダーという組織は勉強もさせる暇なく子どもたちを利用している、なんて言われてしまいかねない。そうなるとこちらがかなり分が悪くなってしまう。それはなるべく避けたかった。ボーダーという組織に反発する人間に隙を与えてはならなのだ。
「賢。誰も成績上位になりなさいって言ってないんだよ? 平均点を取ってって言ってるの」
「でも~」
「言い訳しないの。学年末テストでも似たような成績だったらこっちも考えるから」
「考えるって……」
「広報イベント、賢だけ不参加とか」
「えぇー!?」
佐鳥だけ仲間はずれ? と喚く佐鳥に、そんなに嫌ならちゃんと勉強しなさいと釘を刺す。渋々納得したようにはぁい、という佐鳥にやる気になればできる子なのにな、と心の内で独り言つ。
噂によると狙撃手としても頭一つ抜きんでているらしい。どう抜きんでているのかはわからないが。
話を切り替えて次回の広報イベントの話をする。なんでこんな話をしていたかと言うと、テスト前に入りそうなイベントだからだ。
「みんな学年末テストって二月の後半だよね?」
なまえの問いかけにみんな口を揃えてはい、と言う。この前提があっているのであれば、次の広報イベントを実施することができそうだ。学年末テストの前にイベントをしたいんだけど、と言えば、全員から不思議そうな顔をされる。
二月の頭の土日にもイベントをする予定なのに、その次の週もイベントをするとは思っていないのだろう。
自分だってそうだ。不思議そうな顔をする三人にまず理由を説明する。
「ボーダーに最近ファンっぽいひとたちがいるのは知ってるよね?」
「毎回イベントに居る人たちですよね」
「そう。で、その人たちからバレンタインのイベントはないのかって問い合わせがいくつもあってね」
「バレンタインイベント……?」
背中に宇宙でも背負っていそうな嵐山たちに言いたいことはわかる、と自分も同意を示した。ボーダー隊員のバレンタインイベントってなんだ、と何度も思っている。戦闘員のバレンタインイベントって字面からすでにおかしい。
内容としては、要は隊員にチョコを渡せる場所がほしい、と。
学校まで押し掛けることも考えたが、それだと自分のものが確実に嵐山隊の人たちに届くのかわからない、とも書かれている。
広報イベントの数をこなすようになって、固定ファンのようなものは確かにでき始めていた。
それがまさかこういうアクションを起こしてくるとは思わなかったが。
問い合わせ文書を見るに、入隊試験を落とされたものも多くいるらしい。あの試験、トリオンを基準に一定数落とされるらしいから仕方ない。
他の隊員の伝手を使って渡すことも可能だろうに、まさかイベントを希望されるとは思ってもいなかった。
「一応内容としては、バレンタインチョコを渡せますってやつなんだけど。あ、もちろん広報としての活動もきちんとするよ」
自分としてはしてもしなくてもどっちでもいいんだけど、と添えて、判断は各隊員に委ねる。
佐鳥などはチョコがもらえるなら、と割と前向きなこと言っている。調子がいいなぁ、と思いながら他の面子の解答を待った。あの、と綾辻が手を上げる。
「どうしたの、遥」
「私はどうすれば……?」
「居るだけでいいんじゃないかな……?」
綾辻は女子なのでチョコレートをあげる立場ではあるが、用意する必要はないだろう。用意して何を言われるか分かったものではない。綾辻と自分はいつも通り案内とか説明でいいよね、と当日の役割を決めていると、時枝がはい、と声をあげた。
「はい、充」
「イベントなんですけど、おれは賛成です」
「お、理由を聞いても?」
「学校に押し掛けられても面倒だし、クラスメイトや友人に迷惑をかけるのも嫌なので、外部に方はそのイベントでのみ受け取ります、というのであれば効率がいいかなって」
「なるほどなるほど」
なんの衒いもない回答に納得する。確かに外部の人間が学校の外にたむろしたりしたら、学校側にも迷惑だろう。
そう考えるとこのイベントも意味があるものになるかもしれない。
「准はどうする?」
「俺も充と同じで大丈夫です」
「じゃあ、異論はないようなのでバレンタインイベントは開催するものとします。あくまでチョコ云々は広報活動の二の次だけどね」
うちは広報部隊なので、広報がメインなのは変わらないことをお互い再確認する。イベントを開催するにあたって別途用意するものもあるだろうし、いろいろ洗い出す必要がありそうだ。嵐山と時枝は個人のランク戦に、佐鳥は射撃訓練に行きます、と言って作戦室を出ていった。綾辻と二人残されて自分も作戦室を後にしようとしたところで、綾辻から待ったがかかる。
「おねえさんはチョコとか大丈夫ですか?」
「え、なに、遥わたしにチョコくれるの?」
「普段からお世話になってますから」
「気をつかわなくていいのに。でも、ありがとうね。遥がくれるんだったらわたしもチョコ持ってこようかな」
「え! じゃあ交換会しましょうよ」
笑みを浮かべて言う綾辻の若さと美人さに当てられて目が潰れるかと思った。
「じゃあ、イベントの日に交換しちゃおう」
「いいですね!」
お互いバレンタインイベントの日にチョコを用意する約束をして、作戦室を出ていった。なんのチョコにしようかな、と悩みながらメディア対策室に戻る道を歩いていく。
バレンタインイベントの当日は予想よりも多くの人─主に女性─が参加してくれた。まさかここまで集まると思ってもみなかったのだ。
綾辻以外の隊員でレーンを作ってそこに隊員を立たせる。彼らの後ろに机を置いてそこに段ボールを乗せた。チョコはひとりひとりから受け取り、それを段ボールに入れていく手筈だ。嵐山などは一つの段ボールでは足りず、二箱目に突入していた。
いつもの広報イベントがひと段落したところで、お待ちかねのバレンタインチョコ受け取り会を開始すると、散り散りにイベントを見ていた若い女性たちが一斉に各隊員のレーンに並んでチョコを渡していく。
それを綾辻と眺めながらすごいね、と感心していた。
「嵐山さん、最近告白されることが多いらしいですよ」
「そりゃあれだけ顔が整ってればね」
従兄妹である小南も顔が整っているのを見ると、あの家系の顔面偏差値がどうなっているのか知りたいところだ。どういう遺伝子が組み合わさったらああいう顔が生まれるのか。興味本位なので勝手に思っているだけだけれど。
絶えることなく続く受け取り会を見ている中で、三人とも疲労に色が見えたところで一度休憩を挟むことにする。さすがに一時間ぶっ通しは疲れてもおかしくない。
参加者から軽いブーイングを受けたけれど、そんなものはものともせず、三人を一旦説明ゾーンとして設けていたテントの下に移動させる。用意しておいた椅子に座って一息ついてもらい、綾辻も気を利かせて飲み物を買って来てくれていた。それを三人に差し出しているのを見ながら、メガホンを手に持ち待っている女性たちに一声かける。
「十分休憩をいただきます。今しばらくお待ちくださいませ」
えー、と不満そうな声が聞こえるけれど、そんなのは無視だ。隊員の神経をすり減らしてまで行うことではない。元々要望があって設けた時間ではあるけれど、長時間になるのであれば話は別だ。
綾辻の買ってきた飲み物を飲む嵐山と時枝と佐鳥の様子を伺う。疲労が垣間見えたような気がしたので問いかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
「もう少しで終われそうなので大丈夫だと思います」
「ならいいけど。つらくなったら言うんだよ」
はい、と異口同音に言う姿に疲れの色は見えているけれど、さっきよりはマシだろう。受け取り会をさっさと終わらせてあげたいけれど、なかなか人の波が途絶える気配はない。来年は郵送での受け取りのみとかにした方がいいかもしれないな、と考えをまとめる。こんなことになると計算に入れられなかった自分の落ち度を反省する。できる限りのすべてで彼らを守ると決めているのに、それができていなくて歯がゆい。
なんとか全員の来場者を捌ききった頃には、午前十一時から始めたイベントだが十七時になっていた。
通常は十五時に終了するのが定石なのに、だ。来場した女性たちの熱に慄いてしまう。会場の片付けは自分と綾辻と場所を貸してくれた施設の職員で行った。さすがに疲れ切っている三人に手伝わせるような真似はしない。
片付けが終わり、場所を貸してくれたて片付けを手伝ってくれた職員にお礼を言う。いつもなら書類くらいしか乗せない台車に段ボールを四つ乗せる。
なかなかの重量になっていて、押すのも一苦労だ。身体全体を使って台車を押せば、嵐山に押してもらっているときよりもスピードは落ちるが着実に進んでいる。
いつもの七人乗りの車に荷物をトランクに乗せて、ついでに朝から隠すように入れてあった小さな紙袋を手に取った。
それから車に乗り込んだ。
助手席には綾辻、後部座席には男子たち。中に入って座席についた途端、みんなはぁーっと息を吐いたのが運転席からも分かる。
「疲れたでしょう。ごめんね、みんなに負担かけちゃった」
「いえ、」
「来年は郵送受け取りのみとかにしよう」
「それが無難ですよね」
すこし休憩してから車に乗って基地に帰ることにした。
さすがにここで休憩してリラックスしてもらった方がいいだろう。
休んでいる後部座席の三人を尻目に綾辻にさきほどトランクから出した紙袋を渡す。
「遥、はいこれ」
「あ! 私も持ってきました!」
二人で持ってきたチョコを交換する。自分から綾辻に渡すのは高級チョコレートメーカーの缶に入ったチョコレートだ。缶のパッケージがかわいいことで有名でもある。それを差し出すと普段は落ち着いている綾辻からかわいい~! と声が上がる。高校生の女子が好きそうなお菓子を選んで正解だったようだ。
「わたしも持ってきました!」
綾辻が鞄から出したのはシックな黒い箱にを差し出される。それを受け取って箱に書かれているメーカーを確認すると学生が買うにしては値の張ったメーカーであることに気付いた。
「遥、気を遣わなくてよかったのに」
正直コンビニのレジ前とかに売っているブロック型の二十円のチョコいくつかでもよかったよ、と言えば、綾辻はいつもたくさんお世話になってますから、と言って笑う。
女性陣でチョコの交換会を行っている中で、疲れ果てていた男性陣がそれに気づいてブーイングが飛んできた。
主に佐鳥から。
「なんで綾辻先輩とおねえさんがチョコ交換してるんですか!?」
「約束してたから」
「ねー」
そう言って綾辻と顔を合わせていると、佐鳥が悔しそうに佐鳥も欲しかったー! と騒ぐ。それに時枝と嵐山も自分たちも欲しかったー、と便乗する。
「あんたたちはファンの子からたくさんもらったでしょ」
「それでも欲しかったんですよ」
「食べきれないからやめときなって」
間違っていることは言っていないと思うが、どうにもチョコが欲しかったと騒ぐ面子に来年はみんなにチョコをあげるから、と約束をすることで場を収めた。
本命チョコでも友チョコでもない上司チョコを欲しがるなんて変わってるなぁ、と思いながら、だいぶ疲れが柔らかくなった表情に安堵の息を吐く。
「そろそろ基地に帰るよー」
声をかけてから車の鍵を回してエンジンをかけた。
今日は遅くなってしまったので、嵐山隊の面々を家まで送ってから基地に帰ることにする。
メディア対策室で次に配るにビラを畳んでホッチキスで留める作業をしていると、迅に一人じゃ大変そうだよ、と言われたしい嵐山がメディア対策室に現れて畳むのを手伝ってくれた。こういう作業は学校でもすることが多いから得意ですよ、と言うのでお言葉に甘えることにする。はぁ、と物憂げな表情を浮かべる嵐山に声をかけるか悩んで、気になってしまう気持ちが勝って作業をしながら話しかけた。いつも溌剌をした表情を見ることが多いので、不思議に思ったのもある。
「なぁに、准。悩みごと?」
「悩みごとというか……」
悩みごと言っていいのかもわからない、というので、自分にできそうなことを言ってやる。
「聞くだけでいいなら、聞くけど。聞かれたくないなら、わたしは見なかったことにするよ」
なまえから提案をすると嵐山はうーん、と悩んでから話を始めた。内容としては迅が最近気落ちしているような気がする、ということと、ランク戦で上位に上がれなくなってしまったということだった。二つも同時に悩みがあるのならいつもより考え込んでしまうのもわかる気がする。
「ランク戦のことは専門外だから大したこと言えないけど、変化をもたらしてもいいんじゃないの?」
「変化?」
「人数増やすとか、そもそもの戦法を変えるとか、武器を変えるとか? どれもやってたら申し訳ないけど」
「……人数を増やすっていうのは盲点だったかもしれません」
「嵐山隊って元々柿崎くんも居たから、それをもし大きな変化もなくやっているのだとすれば、一人に負担がかかってそうよね」
一人二役やってるものじゃない、と言うと、確かに、と納得した返事が返ってくる。
「あ、もし隊員が増えることがあれば事前にデータだけ頂戴」
「わかってますよ」
念のため素行調査などはさせてもらいたいところなのである。
広報部隊に加わるということは広報活動に加わるということなので、内気な子だと難しいものがあるかもしれない。
難しいかもしれないけれど、そういうことも加味した上で選んでくれると助かる、とメディア対策室としての意見を述べる。
「すこし目立ちたがり屋の方が広報活動に積極的になりそうで助かるよね」
「それは、まぁ、そうですね」
自分の意見を述べてから、でも、と言葉を続ける。
「嵐山隊が勝てるように人を入れるわけだから、自分たちを一番大事にして。あくまで今の上司からのお小言くらいに思ってくれるといいかな」
「わかりました」
ひとつの悩みを片付けたところで、次は迅の話だったか。
詳しく聞いてみると、特殊なトリガーがあって、それの争奪戦が行われるらしい。それが迅にとってとても大切なものだそうで。そんな迅に嵐山は寄り添うことしかできない、と落ち込んでいた。
「それが大事だと思うけどね」
「そうですか?」
「迅くんは多分准からのフォローとか求めてないんじゃない? そういう人間に無理に接しても亀裂が入るだけの可能性もあるし、寄り添うっていうか見守っておくのも大事だと思う」
「そうなんですかね……」
「あくまで年長者からの意見だから。聞き流してくれていいよ」
嵐山や時枝などの隊員と話すときに心掛けているのは、ああしなさいこうしなさいと言わないことだ。
あくまで年長者としてこういう選択肢やこういう考えがあるよ、と告げるだけにしている。きっと普段からやっていることだろうけれど、自分で考える癖をつけてほしかった。
「〝なにもしない〟ってもどかしいことだろうけど、〝なにもしない〟ことが大切なこともあるんだよ。世の中にはね」
「なるほど」
ようやく腑に落ちた表情をした嵐山にほっと胸を撫でおろす。どうか嵐山と迅の間で良好な関係を築いてくれることを願った。
話が終わったところでちょうど行っていた作業も終わったので、嵐山に礼を言って自分が持ち歩いているレモンの飴を渡す。
「またこれだ。最近持ち歩いてますよね」
「好きなんだもの。いいでしょ」
「俺も好きですよ、これ」
美味しいもんね、と同意を求めると、そうですね、と返事が返ってきた。自分の分も飴を取り出して口に運べば、甘いような酸っぱいような味がする飴に疲れが減ったような気がする。
数日後に嵐山隊に木虎藍という女の子を隊に加えたい、という連絡が嵐山から来た。
早速データベースにアクセスして隊員情報を確認する。
年齢は時枝と佐鳥の一つ下。
星輪女子学院の中等部所属。
入隊試験でもトップクラスの成績で入隊。
現在攻撃手。
情報だけ見てみるとなかなかいい人選なのでは、となった。
彼女に隊への勧誘と広報活動にも参加するのが嵐山隊の役目であることを告げる、と旨も書かれていたので嵐山隊としては前向きに検討しているのだろう。
そういう人間かどうか知る必要があるのだ。
あとは自分と相性が合うかどうかを見極める必要がある。最近稀に嵐山のファンから文句をもらうことがある。
こんな年上の女が嵐山とどうこうなることなどありえないのに、好きな人の近くに居るというだけで攻撃をしてくる女性は一定数いるのだ。
いつの時代になっても。
これで綾辻は攻撃されないのだから、本能的に自分よりも上の人間に勝てないことをよく理解していると思った。
あとは綾辻が六頴館高校であることかつ生徒会に所属しているというのが、隙が無くてやっかみもできないのだろう。
事前に嵐山から木虎のことで話がある、というので嵐山隊が空いている時間に作戦室に伺うよ、と言えば候補日がいくつか送られてくる。
こういうときに嵐山とも長い付き合いになったな、と実感する。前は候補日を教えて、というワンクッションがあったので。
提示された日時の一つの時間帯に向かえば、ちょうどそこには嵐山の姿だけがあった。
作戦室に入ってソファに案内されたので、それに従いソファに腰を掛ける。
他の面子がいないことを不思議に思っていると、嵐山から説明があった。
時枝はランク戦に、佐鳥は射撃訓練に、綾辻はオペレーターで研修があるそうだ。
「それで、木虎の件なんですが」
「うん。いいんじゃない? 今までいなかった星輪女子っていうのもいいアピールになりそう」
「じゃあ」
「本人は広報活動についてはなんて?」
「前向きにやりますって感じでしたよ」
「それならこのまま話を進めちゃおう」
「はい。手続きお願いします」
「はいはーい」
用件が終わって嵐山隊の作戦室を後にしようとすると、嵐山が訓練室に行くというので一緒に作戦室を出た。
すっかり隣を並ぶようになった嵐山と自分の関係性に年月が重なっているのを感じた。。
噂の木虎を顔を合わせたのは彼女が嵐山に入って最初にあった広報イベントだ。基地の駐車場で待ち合わせをすると夜勤明けだったらしい嵐山隊がやってきた。
その中でそわそわとした様子の木虎の姿が目に入る。
木虎が何か言ってくる前になまえからアクションを起こす。
「今日は来てくれてありがとう。木虎藍ちゃん、だよね? メディア対策室で広報を主に担っているみょうじなまえです」
最後に名前を名乗り頭を下げると、木虎は驚いたらしく小さくえっ、と声を出したのが聞こえた。
「木虎藍です。よろしくお願いします」
なまえから手を差し出せば握手の意図が伝わったのか、木虎が手を取って握手をしてくれた。初対面は問題なく終わりそうで安心する。
車に乗り込むように伝えると、木虎以外はみんな勝手知ったる、と言った様子で中に入っていく。木虎も困惑したまま綾辻に言われるまま車に乗り込んだ。
嵐山隊が全員乗り込んだのを確認して最後に自分が運転席に乗り込む。
エンジンをかけてそのまま車を発進させる。前にも利用したことのあるショッピングモールでの広報イベントなので、初めていく場所よりも幾分か準備が楽だ。
ショッピングモールに到着して関係者用の駐車場に車を停めるそれから、荷物を下ろして嵐山隊と一緒に関係者入口へ向かう。以前は利用させてもらえていなかった関係者控室なども今回は使わせてもらえる、とのことで助かった。
休憩を取るにしても、人前で取ったところで休んだ気にはならないので。
イベントの内容は毎回ほぼ同じもので─バレンタインイベントなどは除き─、ボーダーという組織についてや、隊員の仕事内容、質問コーナーなどそういったことを一般市民に宣伝する。
─そう、いつもとなんら変わらないイベントとなるはずだった。
全身黒い服装でキャップを被っている姿が目に留まった。小さな子どもと親からの質問に答え終わってその人間が木虎に近づいていこうとしている。不審に思って木虎の元に行こうと近寄ると、男が何かを投げつけようとしたのが見えた。走って木虎をかばうために彼女と不審者の間に入り込む。なにが飛んできたかわからないけれど、なにかが飛んできたことだけが分かった。
「木虎ちゃんっ!」
すかさず木虎を守れば頭に衝撃があった。
反射的に痛い、と思ったけれど、そこまで痛くはなく、粘り気のあるものが頭に当てられたのだと分かる。うっすらを目を開けて足元を見ると卵の殻が落ちていた。生卵が投げられたのだろうわかる。
けがをするようなものじゃなくてよかったと思うと同時に、木虎に卵が当てられいないか確認すると、無事な姿が目に入ったのでほっ、と息が出る。不審者は嵐山たちが捕らえてくれたようでそのままショッピングモールの警備員に引き渡された。ボーダーがどうたらこうたら聞こえるので、いわゆるアンチ活動をしている団体の関係者なのだろう。
イベントは騒然とした空気となり強制的に終わろうとすると、その前に先に嵐山が今日のイベントは急遽中止とします、と大声でアナウンスしてくれていた。
汚れたままでいることもできないので、綾辻に財布を渡して適当に服を買ってきてもらうことにする。その間にショッピングモールのスタッフが案内してくれたバックヤードの控室で貸してくれたタオルを受け取り顔を拭いた。
綾辻を待っている間に木虎のフォローをしないと、と思って彼女を見ると驚いていたさっきとは違って、いつもの表情に戻っていることに気付く。
「木虎ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。驚きはしましたが」
「ならよかった」
安堵すると同時に自分の手が震えていることに気づいて、気がゆるんだのか滴が線を引くようにすっ、と自分の頬を濡らした。そこからはらはらと涙が流れ始める。
「ごめん、ちょっと、今、止めるから、」
そんな自分が情けなくて、子どもたちに見られたくなくて顔を覆うように借りていたタオルで隠した。早く綾辻に帰ってきてほしいと思う。
綾辻が買ってきてくれたスウェットに着替えてショッピングモールのスタッフに礼を言って、そのままその場を後にする。
駐車場まで言って乗ってきた車に乗り込む。
気を利かせてくれた時枝たちが荷物はトランクに入れてくれていた。
全員が車に乗り込んだことを確認して、それから車を発進させる。
いつもよりも口数が少ないみんなに和気藹々できるように話を振っても、どこか暗い表情をされてしまった。
自分がさきほどの騒動をうまく処理できなかったことを反省する。
彼らを身体的に守れたかもしれないけれど、心に傷を負わせてしまったと思った。しかも木虎は今日が初めての広報イベントで。恐ろしいものに思われていたらどうしよう。普段はもっと穏やかなイベントなのに、どうして今日に限って。
これをきっかけに木虎が嵐山隊をやめます、と言ってくることだけは避けたいと思った。
こんなことになってしまったので、子どもたちを一人ずつ家まで送っていく。
最後に嵐山を家まで送ろうとすると、個人ランク戦をしにいきたいので基地までで良いと言った。
それなら、と思って二人で基地まで戻っていく。道中話をできるような空気ではなくて、重たいものが嵐山と自分の間に漂っていた。
基地に到着して嵐山を車から降ろして、自分もエンジンを切って運転席から降りる。車の後部に移動してトランクのドアを開け、台車と荷物を下ろした。メディア対策室まで荷物を運ぼうとすると、嵐山が、あの、と待ったをかける。
「怪我、大丈夫ですか」
「すこし痛かったけど、多分野球ボールとかよりは痛くないよ」
野球ボールを頭に食らったことはないけれど、野球ボールは窓ガラスを割っている印象があるので、きっとそれよりは痛くないと思うのだ。
暗い表情のまま嵐山が話を続ける。
「なんであんなことを」
「それがわたしの役目だから」
自分の返答に嵐山が堪えるように唇を噛む。それから冷静を心掛けている声で告げられた。
「俺たちのために怪我をしてほしくないんです」
「するよ。他にやってあげられることなんて、わたしにはないんだから」
「あなたのそういうところで好きで嫌いです」
「言うなぁ」
めったに聞かない嵐山からの辛辣な言葉に困ったように笑っていると、嵐山がまっすぐと視線をなまえに向けて言った。
「好きです」
「ありがとう。わたしも准のそういうまっすぐなところが好きだよ」
「俺の気持ちはそういうのじゃなくて」
瞳の奥にぎらりとしたものが見える視線がなまえの姿を捉えたのが分かる。
「異性として好きですなんです」
「え」
まさか自分よりもかなり年下の男子にこういうことを言われるとは思っていなかった。
きっと普段自分の周りにいない女性だからそんなことを思うんじゃないだろうか、と真っ先に考える。自分でも気づかないうちに混乱してしまっていたのか、言葉に迷って嵐山に返事をせずにいると、右手を取られて口元に持って行かれた。
─そして指先に柔らかい感触がある。
指先に口づけを落とされたのだと分かると、身体が岩のように硬直して動けなくなった。
なまえの内心などお構いなしに嵐山が視線を一ミリも逸らさずに言う。
「返事は要りません。今まで意識もされてなかったでしょうし。だから、これから意識してください。返事はそれからにしてくださいね」
それだけを言い残して基地に戻っていってしまった。残された自分の顔に熱が集まっていることには気づかないふりをする。