こんな人間だから

春になって新学期が始まって少し経った頃、烏野高校バレーボール部では新入部員も入り、リベロの西谷と東峰がチームに戻り活気に満ち溢れて始めていた。部員全員が練習に勤しむ中、西谷が思い出したかのように言葉を発した。

「そういや、なまえは来てないんスか?」
「あー…みょうじは家の事情で当分来られないって」
「まじスか!またかよ!」

聞いたことのない名前に日向たち一年生が反応を示して、それに答えたのは澤村だった。私はそのままマネージャー業務を続ける。今日もたくさんやることがありそう。

なまえ?さんって誰ですか?」
「日向たちはまだ会ってないんだったな。うちの幽霊部員だよ。二年生でマネージャー」
「清水先輩以外にもマネージャーいたんですね」
「うん」

月島も珍しく興味を示し、それに気まずそうに答えたのは田中だった。気まずくなる必要なんて何処にも無いのに。確かに私みたいになまえはずっと部活には来られないけど、来たときはちゃんと仕事をしてくれるし、それだけでも十分助かってる。

「本当に滅多に来ないレアキャラだからよ、また来たら紹介するわ」
「うぃーっす」

みんななまえのことはあまり深く触れようとしなかった。本人が来たときに質問攻めにでもしたらいいって思っているだろうし、私もそれで良いと思う。
最後になまえに会ったのは一週間も前のことだ。なまえは来る時は毎日来てくれるし、来ないときはとことん来ない。でも本人は退部届を出さないから辞めるつもりはないんだろう。一度武田先生が面談したらしいけれど、辞めるつもりはないとはっきりと意思表示したらしい。それを聞いて安心はした。私しか知らないことだけど、なまえにはちょっと特殊な事情がある。それを助けることはできないし、なまえが助けてもらうことを望んでいない。だからこのまま傍観するしかできない。なまえはどこか自分に自信がない節がある。私は手伝ってもらう度にお礼を言うけれど、そのお礼を素直に受け取ってくれたことはない。

「あたし、こんな人間だからこれくらいしかできないんです」

そう哀しそうに笑うなまえを見るのは心が痛む。もっと頼ってくれたらいいのに、と一度言ったことはあるけれど、潔子先輩にこれ以上迷惑かけられませんよ、とかわされて終わってしまう。それがもどかしくて、踏みこませてくれないことが少しさびしかった。

「早く戻っておいでよ、なまえ
「ん?清水なんか言った?」

小さく呟いた言葉がスガの耳に拾われていたみたいで、なんでもないと誤魔化した。
私はあの子の戻ってこられる場所を作っておきたい。