心はここから最も遠い

気付くと季節は春から夏に徐々に変わりつつあった。来月になると期末テストもあるし、勉強には手を抜けない。取られたお金が返ってくることはないから、なんとか生活を切り詰めて生活費を稼いでいる。早朝は新聞配達のアルバイトをして、夜はコンビニやファミレスでアルバイトしている。(本当はだめだけれど、お金が本当にやばいときは夜勤も出勤させて貰っている)ここまでしても部費はまだ用意できていないのが現状だった。一度武田先生が部費くらいなら肩代わりすることも可能だと言ってくれたけれど、それだけは頼りたくないし、部費を肩代わりしてもらっても生活費を稼ぐので部活に行けないことの方が多い。なんであたしばっかりって思うことも多いけれど、バレー部があるからなんとかやっていけている。戻る場所があるんだって思うと、なんとか自分を保つことができた。時計を見ると学校に行かなくちゃいけない時間だったから家を出る。今日は学校終わりにファミレスで長時間勤務の日だから頑張らなくちゃ。

「夏合宿までに間に合えばいいなぁ……」

体育館では武田先生が日向や影山、田中、西谷に向かってテストがあると言う現実を突きつけていた。大地さんに言われて逃げようとする田中と西谷を捕獲する。流石に赤点は無い。みんなで決めて部活終わりに馬鹿四人組を中心に勉強会をすることになった。二年組の先生役は俺一人だから少し気が重い。去年ならみょうじが手伝ってくれていたからマシだったんだけど。西谷と田中の勉強を見ていたら、日向と影山の勉強を見ている月島が口を開いた。

「縁下さんも大変ですね、去年もこうやって一人で勉強教えてたんですか?」
「あー……去年はな、」

俺が少し曖昧に返事をすると西谷が口を挟んだ。

「去年は力となまえの二人体制だったぞ!俺はなまえに主に教わってた!」
なまえさん……あぁ、幽霊部員の人でしたっけ」
「おう!なまえすげぇ頭良いからよ!多分力より頭良いよな?」
「多分な」

みょうじの話はバレー部の二、三年の間ではちょっと触れてはいけない話題になっている。いつも家の事情で長期間部活を休むから。でも、部活に来たら誰よりもしっかりと働くから多少の不満はあってもみんな言わないようにしていた。西谷はそう言うの気にせず全部言っちゃうけど。

「確かみょうじって学年一位とか三位とかうろうろしてるんじゃなかったっけ」

田中が普通に言ったけど、それを聞いて日向や影山がとても驚いている。うちの部活結構進学クラスの人間居るからなぁ。

「ま、まままじですか田中さん」
「おう。先生たちが話してるのをたまたま聞いちまったんだけどな」
「その先輩に教われないんスか……」

影山の言葉に二年生全員が目配せをする。来てくれたら俺たちもすごく助かるんだけどね。

なまえは家の用事が忙しいからな!前もたまにあったんだよ。去年の三学期くらいから急に用事が増えてな」
みょうじにはみょうじの事情があるから仕方ないよ」
「あいつ、なるべく早く戻ってくるって言ったのに全然戻って来やがらねぇ」

そう言ってやるなよ、と感情が高ぶっている西谷をなだめて勉強を再開する。みょうじの姿は移動教室のときとかによく見るし、廊下で会えば挨拶も雑談もする。でもいくら話していてもあいつは俺たちと一線引いているように感じる。終業後のホームルームが終わったら急いで帰っているのを見たし。最近ではなにかあるんじゃないかって邪推することもある。先生に呼び出されている回数も少なくない。去年は一線引いているとかそんなこと全く感じなかったのにな。