なまえっていう人間は、真面目で、頭がよくて、たまに龍や俺と一緒になってふざけたり、マネージャー業に一生懸命で、悪いやつなんかじゃないんだ。それはわかってる。バレーボール部のマネージャーになったのは潔子さんがなまえをたまたま誘って、なまえも特にやりたい部活もないしって軽い気持ちで見学に来たところから始まったと本人に聞いた。気付けばなまえもバレーボールにだいぶハマっていて、俺としてはしてやったり、と思っている。俺や龍が赤点で試合に出られないかも、と言うと必死になって俺たちが理解できるまで勉強を教えてくれた。なまえのおかげでいくつものテストで赤点を免れてきた。旭さんがスパイクを決めるたびに喜んで、俺がレシーブでチャンスを生み出すたびに喜んで、試合は負けることが多かったけれど、それでも潔子さんとなまえは支え続けてくれていた。去年の秋、当時の三年生の引退式の帰り道のことだ。たまたまなまえと二人で帰ることになった。隣を歩くなまえは穏やかだった。普段ふざけたり飄々としていることが多いなまえだけど、二人っきりになったりすると静かなことが多い。本人の頭の中では何かしら考えているんだろうけど。
「三年生引退しちゃったね~」
「そうだな」
「時間が経つのは早いや」
「本当にな!気付いたら俺たちが二年生、なんていうことが起こりそうだなー!」
「それは大いにあり得るね」
後輩が入ってきたらこうするんだ、ああするんだ、って言いながらだらだらと歩いていく。俺より小さい後輩が入ってくか怪しいね、と言われたことに関しては納得がいかない。ずっと思っていたことをなまえに話す。
「来年は全国を狙う!」
「ばっちりサポートさせていただきますよ」
「任せたからな!特にべんきょー!」
「なんだ、自覚してたんだ」
おかしそうに笑うなまえを見てほっとした。これは心の底からおかしいと感じている笑みだ。最近、なまえは目が笑ってないことが極稀にある。その表情を見ると不安にかられて仕方ない。
「一緒に全国行くぞ」
「どこまでもついていくよ」
西谷たちのマネージャーですから、そう言った。でも三学期に入るとなまえは部活に来る期間と来ない期間があった。家の用事は入り始めたのはこの頃だ。潔子さんは家の用事の詳しく知っているみたいで、俺たち部員にどうかなまえを責めないであげてほしい、とそれだけを告げられた。詳細は潔子さん以外では武田先生しかきっと知らない。
二年生になって、新入部員が入って俺たちは先輩になった。二年生になってからなまえは一度も部活に来ていない。そんなに忙しいのだろうか、もしかしたら辞めるのではないか、そんな意見が飛び交うようになった。辞めることだけは否定した。だってあいつは俺にどこまでもついてくる、と約束した。その言葉にウソはないと思ってる。
「そう言えば、みょうじ先輩って土曜日部活あること知らなかったんですか?」
新しいマネージャー候補の谷地さんが来て、みんないつもより練習中に力が入っていた。潔子さんが頑張って連れてきた子だし、せっかくならば入部して欲しい。また新しい子を探すのも大変だろうし。なまえが部活にまたちゃんと来られるようになったら、また話しは別なんだろうけど。そしてなにより潔子さんが部活中笑顔なのがいい!今日は笑顔の潔子さんを拝見できたので恐悦至極の極みだな。その潔子さんと谷地さんは先に帰ってしまって残念だけど。そんなことを思いながら全体の練習が終わって、自主練の時間帯に入りひと段落したとき、突然そう言ったのは翔陽だった。なんで翔陽の口からなまえの話が出るのかも疑問だし、なんで部活があるのを知らないってどういうことだ?
「どういうことだ?日向」
翔陽の言葉に反応したのは大地さんだった。二、三年は意味が分からないって顔をしているし、一年生四人組も意味が分からないって顔をしている。日向の説明じゃ要領を得ないので月島が説明してくれた。
「僕たち昨日部活終わりにそのままファミレス行って勉強してたんですけど、そこでみょうじ先輩がアルバイトしてて」
アルバイト……?部活に参加せずにアルバイトをしているという事実に驚きを隠せないし、アルバイトする暇があるなら部活に来いって思う。だんだん頭に血が上っているのも自分で分かっている。一緒に全国に行くって約束したじゃねぇか。なんで部活サボってまでアルバイトしてんだよ。今までもずっと休んでたときはアルバイトしてたってことか?あいつにとってバレー部ってその程度なのか?考えれば考えるほど腸が煮えくり返りそうになる。怒りのメーターが振り切れたのが自分でも分かった。
「あいつ……っ!!」
「落ち着けって西谷!今日はもう帰ってるよ。俺さっき部活来るときにみょうじが走って帰ってるの見たから」
「ちっ!!」
縁下になだめられて何とか気持ちを落ち着かせる。翔陽たちが怯えているのが目に映ったけど、それを気にするような余裕が今はない。今日はもう自主練習はやめておく。こんな状態で練習したところでなんの意味もない。明日、確かめに行かなきゃいけない。あんなにバレーする俺たちを楽しそうに見てたお前があの約束を破るはずないって信じさせてくれよ。