置いていってほしかった。あたしの方に振り向かないでほしかった。あたしはお母さんにさえ嫌われてしまう、どうしようもない人間で。みんなみたいにキラキラした存在と一緒にいるのが嬉しくて苦しくて眩しかった。みんなを心の支えにしていたのは事実だけど、心のどこかであたしはみんなみたいな綺麗な存在にはなれないんだって絶望してた。みんなとあたしは違うんだって実感させられることがつらかった。別に悲劇のヒロインになりたいわけじゃない。ただ、みんなみたいに完全に目の前のものに打ち込めない自分が嫌だった。いろいろ余計なことを考えて生きてしまう自分が嫌いだった。
西谷たちの視線が痛くてたまらない。もういっそ本当のことを全部言ってしまおうか、と口を開こうとしたところで病室のドアが急に開いた。現れたのはおばあさんで、手に何か書類らしきものを持っている。
「あら、なまえちゃん。お友達?」
「あ、はい」
おばあさんは西谷たちを見て、あらあらなまえちゃんの祖母です、いつも仲良くしてくれてありがとう、なんて言いながら挨拶をする。西谷たちも初対面の人に緊張しているのか、少しだけ気を逸らせたような気がした。はずだった。
「一つ言い忘れたことがあってね、これだけは急ぎだから……明日また取りに来るから、目だけ通しておいてね。白鳥沢の編入試験要項とパンフレット」
「あ、ありがとうございます。ちゃんと見ておきますね」
思わず早口になってしまったのは仕方のないことだろう。西谷の視線が先程よりも更に鋭くなったのはきっと気のせいじゃない。田中や縁下たちも困惑しているのが感じ取れた。おばあさんはそれだけをあたしに渡すと、じゃあおじいさんを家に待たせてるから、と帰っていった。病室内はまた気まずい空気になる。さすがにあたしが悪いからどうしようもない。
「おいなまえ」
「なあに、西谷」
「どういうことだよ」
最近のあたしは西谷を怒らせることしか出来ていないなぁ、なんて他人事のように考える。今にも殴りかかってきそうな西谷を田中と縁下の二人がかりで留めて、木下と成田があたしを守るように目の前に立つ。
「みょうじ、白鳥沢に転校するの?」
「まだ分からない」
今にも怒りが爆発しそうな西谷を押さえながら縁下が問いかけてくる。はっきりとした答えを出せなくて申し訳ないけど、あたしも自分がどうしたいのかもう分からない。あたしは言葉を続けた。
「でも、多分そうなると思う」
「なんでだよ!!」
「ノヤっさん落ち着け!ここ病院だしうるさくしたら怒られるぞ!」
田中の言葉に西谷はなんとか自分を押さえ込んでいるようだった。いつも怒らせてごめんね。
「おじいさんとおばあさんが、」
「さっきの人か?」
「うん。白鳥沢の近くに家があって、家から近い高校に転校したらどうだって。その方が安心だって」
「さっき引っ越すって言ってたもんね」
「そう。烏野まで通うのは大変でしょうって。あたし成績もいいから白鳥沢の試験も受かるだろうって」
だから、今白鳥沢に転校するってことで話が進んでる。そう言うと、みんな静かになった。そうだよね、どういう反応していいのかわかんないよね。あたしもどう言えば正しかったのか分からない。
「なまえは、それでいいのかよ」
「ノヤっさん」
「だって、あたしはおじいさんとおばあさんに引き取ってもらう人間なのに、迷惑なんてかけられないよ」
「そうじゃない!お前がどうしたいかって聞いてんだ!」
「あたしは、このままでいいの」
笑えているだろうか。最近表情筋がちゃんと動いてくれなくて困る。あたしの答えを聞いた西谷はもういい!って大きな音を立てて病室を出て行った。それを追うように田中たちも出て行く。木下と成田は差し入れを冷蔵庫に直してから二人のあとを追った。みんなに迷惑かけっぱなしだなぁ。
「ごめんね」
「いいよ、もうそれはみょうじの癖だと思ってるから」
「さすが縁下だね」
じゃあね、と最後まで残っていた縁下が別れを告げて病室のドアが閉まった。
「あたしだってどうしたいか分からないよ」