抱きしめ、そして締め付ける愛しかしらない

期末後すぐの合宿を終えて、通常の練習に戻っていた。部員のみなさんは(清水先輩も含んで)そわそわしていた。だって今日は、ずっと療養中だったみょうじ先輩が戻ってくる日だから。みょうじ先輩の怪我はあらかた治ったけれど、まだ完治ではないらしい。でも成績を受け取りに来るのに加え、三者面談で学校にやってくるというので、ついでに部活にも来てくれることになった。安静にしなくちゃいけないのは変わらないから、主に見学がメインだけど。それでも二年生の先輩も三年生の先輩も嬉しそうだった。若干練習に身が入っていないことでコーチに怒られているけれど、コーチも内心ではどうしようもないと理解しているんだろう。いつもより言葉が優しい。夏の体育館は蒸し風呂だから、扉という扉を開けっ放しにしている。蝉の声もよく聞こえる。ボール拾いをしながら、そうやって考え込んでいると、声がかかった。みょうじ先輩の声だ。

「こんにちはー」
なまえー!!!」
みょうじー!!」

真っ先にみょうじ先輩に近付いていったのは西谷先輩と田中先輩で、他の二年生がそれに続く。西谷先輩はみょうじ先輩の首にぎゅうぎゅう抱きついては、縁下先輩や成田先輩に引き剥がされようとしていた。二年生の次に三年生が寄っていく。最後に私たち一年生だ。

「練習邪魔してごめんなさい」
「いや、もうすぐ休憩だったしいいよ」

澤村先輩とみょうじ先輩の会話に皆が一斉に飲み物と食べ物を取ってくる。コーチと武田先生は私たちを遠目から見ていた。今まで黙っていた清水先輩がみょうじ先輩にくっついている西谷先輩を無理やり引き剥がして、西谷先輩よりも強くみょうじ先輩を抱きしめる。

「潔子先輩、いたぃ、」
「おかえり、なまえ

清水先輩の声を合図に皆で合わせておかえりなさい!と大声で言う。体育館にその声だけが響いてなんだか面白かった。

「ただいま、みんな。待っててくれて、ありがとう」

飲み物と食べ物がある程度揃うと、菅原先輩が音頭を取った。かんぱーい!とみんなで乾杯してジュースを飲んでいく。みょうじ先輩はお見舞いに行ったときよりも元気そうだった。表情から雰囲気から、何もかも。お見舞いのときにあったみょうじ先輩はどこかやけになっているというか、自暴自棄な雰囲気があった。それがすっきりしたような印象を受ける。

「そういえばなまえ、通知表はどうだったんだよ?」
「んー?普通にオール五だよ」
「ッかー!これだから勉強できるやつは……」
「そんなこと言っていいのかな?田中くん」

にやり、と笑うみょうじ先輩はとても楽しそうで、それと反対に田中先輩は青ざめた。どうしたんだろうか。

「申し訳ありません。みょうじ様勉強教えてください」
「よろしい」

急にみょうじ先輩にひれ伏した田中先輩を見て二人の力関係が見えた気がした。

みょうじは次の合宿参加できそうなのか?」
「はい、なんとか。潔子先輩と谷地さんには迷惑をかけることになると思いますけど……」
「気にしないで。私たちがサポートする。ね、谷地さん」
「あ、はっはい!!まま任せてください!」
「はい、お願いします」

みょうじ先輩の笑顔を初めてみた気がする。最初にお話しした頃とも、お見舞いのときとも違う、本当の笑顔。思わず見惚れてしまった。すると、扉の方から声がした。

なまえちゃん~」
「あ、おばあちゃん」
「ここにいたのね。私たちは一旦帰るけど、またあとでおじいさんが迎えに来ますから」
「いいよ、一人で帰れるよ」

どうやらみょうじ先輩のお祖母さんらしいその方とみょうじ先輩の会話を聞いていると、帰りのことで揉めているようだった。なんだったら私がお供しますよ、なんて勝手に考えていると、西谷先輩が口を開いた。

「だめよ、何かあったらどうするの」
「あの!俺が最後まで責任を持って送っていくんで!それじゃだめですか?」
「あら、あなたこの間お見舞いに来てくれた子ね?もし迷惑じゃないなら、お願いしてもいいかしら?」
「大丈夫ッス!」
「じゃあ、お願いします。なまえちゃん、念のため帰ってくるときに連絡を頂戴」
「はーい」

じゃあ失礼しますね、と言ってみょうじ先輩のお祖母さんは帰られた。みょうじ先輩は西谷先輩に無理しなくていいのに、なんて言っているけれど、どこか嬉しそうだし、西谷先輩も俺が送りたいだけだからいいんだよ!なんて言って笑って。い、いけめん……!お二人はお似合いだなぁ。

「よーし、じゃあ休憩終了!練習に戻るぞー」
「「「ウィーッス」」」

みんなが練習を再開する中、私と清水先輩もマネージャー業を再開する。洗濯を手伝おうと清水先輩に指示を仰ぎに行くと、次はゲーム形式だからみょうじ先輩にスコアブックのつけ方を教わるように言われた。スコアブックを持って、武田先生の横にみょうじ先輩と二人で座る。ちょっとだけ緊張する……!

みょうじ先輩、」
なまえでいいよ」
「!じゃ、じゃあ、なまえせんぱい……」
「うん。じゃあスコアブックつけていこっか、仁花ちゃん」
「はい!」