もうすぐ大規模な侵攻がやってくる。そう言ったのは迅だった。上層部であらかじめ会議を行い、遊真からも意見を聞き、対策を詰めていく。遊真とレプリカ先生から得られる情報を得、これ以上は上層部だけで話し合いをすることになり、遊真と修には下がるように城戸さんは命じた。二人が会議室から出て行ったのを見計らって、城戸さんが声を出す。
「ところで、迅。実際のところ我々が勝つ勝算はどれだけある?」
「正直今のところは五分から六分ってところかなぁ」
城戸さんの問いに迅はへらり、といつもの何を考えているのか分からない笑顔を向けた。でも、と先ほどの言葉に続けて言う。
「あいつが起きる未来が見えるんだ。あいつが目覚めさえすれば、勝利は確かなものになる」
「……そうか」
上層部全員がなんともいえない表情になった。迅は、じゃあおれはこの後やることがあるんで、と会議室を出て行った。気付けば俺と忍田が深くため息をついていた。
◆ ◇ ◆
玉狛支部に戻ると修と千佳はレイジさんと外にトレーニングに行っているようで、支部に居たのは船を漕ぎ始めている陽太郎と夕食当番の小南と京介だけだった。二人はおれが帰ってきたことに気付くと夕食を作っていた手を止めてこちらを見た。
「おかえりなさい」
「なによ迅、もう帰ってきたの?」
「えー、その言い方はひどくないか?小南」
もうすでに話はB級までに回り始めているんだろう。二人は大規模侵攻の詳細を聞きたいからか、少しだけそわそわしているのが伺える。おれ.は今、頭の中に広がる未来を見ながら、小南に言わなければならないことをどう伝えるか悩んでいる。
「夕飯の準備まだかかりそうか?」
「いや、あとは煮込むだけなんで俺一人でも大丈夫ですよ」
京介がそう答えてくれたので、小南を屋上に連れ出すことにした。大規模侵攻のことで話がある、と言うと、ここで言えばいいじゃない、と返される。ここだとちょっと都合が悪いんですよ、小南さん。京介にばれないようにぼかしながら告げた。
「あの子の話だ」
「あの子?」
「眠り続けている、あの子の話」
そこまで言うとさすがに気付いたのか、さっさと屋上に行くわよ、と連れ出される。火の番をしている京介に、お前にもまたあとで話があるから、と告げてキッチンをあとにする。屋上に着くと、風がさぁっと吹き小南の長髪が靡いた。なまえもこれくらい髪の毛が伸びていたっけなぁ、と昨日会った女の子のことを思い返す。なかなか話さないおれにしびれを切らせて、急かされる。
「で?なまえが今回の大規模侵攻にどう関わってくるのよ」
「今回の大規模侵攻で、なまえは目を覚ます」
「ッそれは……確かなことなの?」
「昨日の朝、なまえとすれ違ってきた。そのときにあいつの未来が見えたよ」
事実を告げると、小南は不安そうな顔をする。無理もない。小南となまえはとても仲のいい、姉妹のような関係だったんだから。
「なまえの顔は……どうだったの?」
「――哀しそうだったよ、」
「そう、本当はあたしの……あたしたちのことなんて思い出したくもないんでしょうね」
「小南……」
目にうっすらたまった涙を袖で拭う小南はいつかの日の姿と重なった。
「わざわざあたしだけ呼び出したんだから、させたいことがあるんでしょ?」
「あぁ、なまえが起きるとき、そばに居るのはきっとお前だから指示を出してほしいんだ」
「指示……?あんたなまえに何させる気よ?」
「ちょっとおれたちのお手伝いを、ね」
そう告げたおれの表情が嫌だったらしく、小南は顔を歪めた。最近そういう顔すること多いよな、お前。
「何でもいいけど、なまえを泣かすようなことしたらシメるから」
「怖っ!」
どんなに彼女が逃げ出したとしても、未来はそれを許してくれない。必ず思い出す未来はやってくると知っていた。彼女がおれたちを拒んだその日から、ずっと。