そしてめざめてしまった

生身の身体が換装体になっていくこの感覚、かなり久しぶりだ。換装体は桐絵と同じ形で、でも色は黄緑色ではなく、あたしのは橙色だ。昔換装体を設定するときに桐絵と色違いにしよう、と言って決めた、橙色。自分の身体にまとわりつく少年のトリガーを剥がすために自分の周りに小さなメテオラと散らせて自分には被害が出ない程度の爆発とさせ、拘束を解いた。そのまますぐにテレポーターを起動して、桐絵の元へと移動する。

なまえ……」
「ごめんね、桐絵」
「遅いのよ、馬鹿」

抱きしめられて、そして耳元で呟かれた。起こしてごめんねって。謝るなんて桐絵らしくないなぁ。申し訳ないっていう気持ちが桐絵から伝わってくる。

なまえ、起きたところで悪いんだけど、頼んでも良い?」
「なあに?」
「迅が、なまえが起きたらとりまるたちの援護をしてほしいって」
「迅は相変わらず人使いが荒いなぁ」

みょうじ、了解と返すと桐絵は哀しそうな顔を浮かべた。きっとあたしが起きたくなかったことなんてお見通しなんだろう。仮初の世界でもう少しだけ穏やかに過ごしたかったな。
老人たちはあたしを逃がしてしまったことに戸惑いを感じているのが読み取れたが、すぐに切り替えたのか次は民間人を狙う攻撃に出た。ここで敵を足止めしたかったのにできそうもないらしい。

「で?とりまるさんって誰?」
「そこの後ろのもさもさしたやつよ」

桐絵に言われるまま振り返ると、見慣れた人の姿が。そっか、烏丸くんもボーダーだったね。桐絵と一緒に居たのはそういうことだったのか。

みょうじさん?」
「やぁ、烏丸くん」

烏丸くんからも困惑している感情が伝わってくる。驚かせてゴメンね。

なまえ
「レイジさん」
「久しぶりだな」
「そうだね、この間姿は見たけど」

神妙な顔であたしを見つめるレイジさんに笑顔で応える。

「京介の援護、頼めるか?」
「まかせて」

レイジさんと桐絵は老人と少年の近界民を食い止めるらしい。眼鏡をかけた男の子とC級の女の子を引き連れて烏丸くんがその場を後にするのをあたしも付いていく。

「桐絵!またあとでね!」
「玉狛で待ってるわよ!!」
「了解!」

移動しながら烏丸くんにどこに向かっていくのか尋ねると、本部に向かっている、とのことだった。今はこの眼鏡の男の子とC級のこの女の子を守ってほしい、と言われた。なんでもこの女の子が敵の目的らしい。ところで、と烏丸くんが言葉を続ける。

みょうじはボーダーだったんだな」
「まぁ、一応ね。詳しい話はまたあとでしよう」
「ポジションだけ聞いていいか?」
「射手だよ」

連絡通路に到着するも、なぜか中に入れない。本部で何か起こっているのかもしれない。どうするか悩んでいたところで、女の子が二人追いかけてくることを教えてくれた。さっきの老人と少年か……。レイジさんは緊急脱出していたようだ。桐絵は街への被害を抑える為に動いているらしい。しかしあたしのトリガーは通信が死んでいるからどうしようもない。非常事態だからお父さんたちのことだ、きっと基本的な部分だけ使えるようにしたんだろう。
後ろから追ってくる先ほどの二人組が見えた。迅との合流地点まで退くぞ、と言ったところで烏丸くんが銃を構えて、その瞬間上から何かが降ってきた。目の前の民家を破壊する。何か言ってる声が聞こえた、と思ったら聞き慣れた迅の声だ。迅はあたしの姿を確認すると、悲しそうに笑っていった。

「おはよう、おれのおひめさま。気分はどうだ?」
「最悪よ。――あたしは、起きたくなんてなかった、迅」
「知ってるよ、でもお前の未来はそれを許してくれなかっただろ?」
「あんたのそういうところが癪に障る」

そういうと迅は嬉しそうに笑った。あたしが戻ってきてうれしい、ってそういう感情が伝わる。
あたしのほうから敵に向き合うと自己紹介をする迅の背中を見ながら今後のことを考える。何かあってもいいように、後ろ手にそれぞれ合成弾を用意する。久しぶりに合成弾を作ると五秒も時間がかかってしまった。やっぱり換装体とはいえ鈍っているのがうかがえる。
そして迅の自己紹介が終わる頃にもう一人人が降ってきた。白髪の男の子だ。全身を黒いトリガーに身を包むこの子は黒トリガーなのかな。
二人が敵と戦い始めたところでC級隊員たちが後ろで悲鳴を上げる。見たことのないうさぎのようなトリオン兵。捕まったらやばいことだけはなんとなくわかった。余裕のあった迅の心が乱れたのがわかる。

「っ仕方ない……!なまえ!お前はC級隊員たちを守ってやってくれ!」
「了解!みんな!避けてね!」

C級をとらえようとしているトリオン兵に合成弾をどんどんぶつける。そいつらがひるんだのが分かった瞬間、C級の子たちに逃げるように叫んだ。
みんなが逃げたのを確認し、トリオン兵をいくつか倒したけれど、何匹ものトリオン兵が湧いて出てくる。

「復帰早々こんなに働かせられるとは思わなかったわっ!」

目の前の敵をどんどん倒していくと、突然耳にサーッと言う音が聞こえたかと思うと、懐かしい声が聞こえた。

なまえくん」
「忍田さん」
「急に申し訳ない。本部の通信室の復旧に時間がかかってしまった」
「いえ、」
「これからなまえくんに回ってもらいたいところを沢村くんがオペレートする。トリオン兵の破壊を頼んでもいいかい?」
みょうじ、了解」

忍田さんから女の人へと声が変わる。オペレートしてもらいながら、トリオン兵(ここで新型のトリオン兵だと教えてもらった)を倒していく。なんでこんなに働かせられているんだろう。今までいなかった罰か。
どれだけの数を倒したかわからないけれど、目の前のトリオン兵が残り一体になった。それを倒し終わると沢村さんはお疲れ様、と声をかけてくれ、そのまま作戦終了を告げられる。
回収班がやってきたのを確認して、その場を後にした。

さて、久しぶりに玉狛に戻るかな。