才分

――どうしてこうなった。
目の前には出水先輩。周りは一般住宅っぽいフィールド。もうだいぶ壊されているけれど。押しに負けて、出水先輩と戦うことになってしまっていた。烏丸くんには見捨てられた。次から宿題見せてあげないんだから……。トリオン体感を味わうのはじめてだなぁ、なんて考えているとマップに転送された姿が見られる前に出水先輩から逃げるように隠れた。レーダーには丸見えだから何の意味もないらしいけど。先輩は出てこないあたしに痺れを切らしたのか、周りの建物を破壊し始めてあたしの逃げる場所を潰していっている。なんていやらしいんだ。いよいよ追い詰められて、出水先輩の目の前に姿を晒してしまった。感じる声が出水先輩だけになった分楽だけれど、トリオン体になるとどうにもサイドエフェクトが働きすぎるようで、楽しいやら早くとどめを刺したがっているのがよく分かった。仕方ない、戦うしかないみたいだ。手のひらにキューブを生成する。面倒なので最初から合成弾を使用する。右手には通常弾と通常弾の合成弾、左手には追尾弾。勝負は一瞬で決める。

「お、やっとやる気になったか?」
「ええ、まぁ。さっさと終わりたいので」
「打ち合いなら俺負けねーよ?」
「どうですかね?」

にっこりと出水先輩に微笑みかける。あたしの手の中のトリオンキューブを見て、出水先輩も大きなトリオンキューブを生成する。お互い生成し終わったと同時に弾を放った。
――と、思ったら出水先輩はシールドを張っていた。やられた、と一瞬思ったけれど、なんてことはない。アステロイドなら弾かれていただろうけど、こっちは合成弾の雨。何発も降り注げば一発くらい当たるでしょ。それに左手の追尾弾は避けられたところを最後まで追うためものだ。

「なッ」

狙い通り、出水先輩のシールドにひびが入る。そのひびのところを集中的に攻撃するように残りの合成弾の軌道を修正する。シールドが壊れたのを確認して左手の追尾弾を放つ。それを出水先輩が避けた。そこまで読み通り。避けた出水先輩のトリオン体にひびが入って、煙のようにトリオンが漏れる。アナウンスが流れた。

「トリオン漏出過多、出水ダウン」

やっと終わった、と思い部屋から出る。またたくさんの感情が自分に向かっているのがわかる。驚愕、畏怖、感嘆、尊敬、侮蔑、エトセトラ。さっきまでトリオン体だったせいか慣れない環境に疲れているのか、サイドエフェクトが読み取る声が騒がしい。頭が痛くなってきた。どうしよう。出水先輩や烏丸くんがこちらへやってくるのがわかる。そんな二人をよそに、自分の頭を右手で抑えるけれど、痛みが緩和される、なんてことはなく身体もだるさが増した気がした。ここに、桐絵か迅が居たらいいのに。

なまえ、大丈夫?」

聞きなれた声が聞こえて、前を見ると学校の制服に身を包んだ桐絵の姿。

「きりえ…なんで…、」
「迅が、あんたが倒れる未来が視えるって言うから。まだ感覚が戻ってないんでしょ。ひどい顔色よ」
「、あたまいたい」
「サイドエフェクトの使い過ぎよ。おじさんたちは今日帰れないらしいから一緒に玉狛に帰りましょう」
「ん、」

桐絵に手を繋がれる。あったかい桐絵の手を握っているとひどく安心した。すこしだけ頭痛もましになった気がする。

「だけど、あんただいぶ鈍ってるわね」
「うるさい、じかくある」
「途中から見てたけど、合成弾作るのに時間かかりすぎでしょ」
「わかってる」
「早く勘取り戻しなさいよ。じゃないとうちのチームに入れないわよ」
「がんばる」

あたしが意識を飛ばさないように桐絵が話しかけてくれているのがわかる。さすがに生身の桐絵はあたしを基地まで連れて帰るのは無理だ。
疲れているあたしに気づいているか気づいていないのか、出水先輩が何かを言っているが答える気力がない。すみません出水先輩。出水先輩の質問には桐絵が答えてくれているようなので任せた。理論の話とかされても困るからあとは頼んだ。

みょうじちゃんすげーな!って寝そう?」
「この子ちょっと疲れてるのよ。詳しく話したいなら今度にしてあげて」
「おー。てかこの子何者?合成弾片手で作ってなかった?そんなやつ初めて会ったんだけど!」

興奮し気味に出水先輩が騒いでいる。元気だなぁ。

「何者って言われても。旧ボーダー時代から居たメンバーだとしか。ちょっとここ数年は休んでたんだけどね」
「はー!俺よりすごいやつ久しぶりに見た!」
「出水、あんた自意識過剰じゃない?」
「それ、俺も今同じこと思ってました」

真顔で桐絵と烏丸くんが出水先輩に反応する。そういうところ似てるよね、二人とも。

「お前らひどくね?」
「正直まだ戦いの勘が戻ってないからあれだけど、あたしは出水よりもなまえの方が射手として天才だと思ってるから」
「――言ってくれんじゃん」

出水先輩から楽しいって感情がすごく伝わってくる。

「また今度いろいろ話そうぜ、みょうじちゃん」
「あ、はい」

おざなりな返事になってしまったのは許してほしい。桐絵がいることで気持ちが緩まってしまっているし、頭痛はまだ治りそうにない。

「小南先輩、みょうじはどうするんですか?」
「あたしが連れて帰るわ」
「送っていきましょうか?」
「大丈夫、あとでレイジさんが迎えに来るから」

レイジさんが迎えに来てくれるのか、うれしい。レイジさんのご飯食べたい。この間食べたのすごくおいしかった。なんてことを考えていると、たくさんの声にキャパオーバーしたのかそこで意識が途絶えた。